ポカラ・サランコットの丘へ、村上春樹の「羊をめぐる冒険」ナマステ③
ポカラ 周辺の住民の皆さんに大変ご迷惑をおかけしました。水田の柔らかい土手を崩し稲の苗を倒したのは今も覚えており、悔やんでいます。それにしても若い男が山中に突然現れて、なぜ道案内をしようと寄ってきたのか。ボゥっと歩いている観光客をカモにするのはわかるが、あの山中に迷い込む外人観光客はそんなに多いのか。どこから、そしていつから狙われていたのか。
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短編集「中国行きのスロウ・ボート」に「シドニーのグリーン・ストリート」という小品が収まっています。そこに羊男と羊博士が登場します。シドニーは3年間暮らしたことがある街です。
「未来少年コナン」をご存知ですか。1978年、宮崎駿さんが演出してNHKで放送されたアニメの名作です。核兵器を上回る最終兵器を使った世界戦争後の近未来を描いており、主人公のコナンらは残された島で生き延びる物語です。シドニーはじめオーストラリアを回っていると、最後に残る大陸はオーストラリアだと確信しました。カリフォルニアに負けぬ青空、美味しい食べ物、のんびりして優しい気質。
シドニーは南半球の桃源郷です。その街で私立探偵を営む主人公は羊男から自分の耳を取り返してくれとの依頼を受けます。耳を奪ったのは羊博士。羊男によると、世界には3000人の羊男がいるそうです。劇的なストーリー展開はありません。結論も驚きはありません。ただ、世界の桃源郷には羊男がいることがわかりました。
きっとサランコットの丘で道案内をしてくれた若い男も、羊男の一人だったのかも。そう思えば、あのペンライトは惜しくないなあ。