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長岡花火

日経平均3万円 貧すれば鈍す 自信と確信を失い、33年前の”栄華”を見上げる自虐市場

 日経平均は5月19日も7日連続して上昇して、終値は3万808円35銭。1990年代初めにバブル経済が崩壊した後、最高値に到達しました。上昇要因はさまざま。企業の好決算やドル高円安で日本株に割安感が生まれたことで、多くの思惑が重なって国内外の投資家から買いが入っています。

市場の内実は悲惨

 内実は悲惨です。米国や欧州の主要株価指数はこの30年間で10倍程度も上昇しているにもかかわらず、日経平均は89年12月29日に記録した3万8915円の過去最高値に比べまだ8割弱のレベル。過去最高値の更新の道のりはまだ遠く、3万円に沸く株式市場は、まるで日本の未来に自信も確信も見つけられない寂しい現況を見せつけられている思いです。とても笑えない、自虐ネタにもならない。世界の株式市場が足踏みしていることもあって今の東京市場を「一人勝ち」と表現している向きもありましたが、そんな・・・。私の実感は久しぶりに花火を見ている思いです。すぐに消えてしまう運命ですが・。

 日経平均が3万円台を超えたのは5月17日。2021年9月28日以来の1年8ヶ月ぶり。当時はコロナ禍で緊急事態宣言が出された都府県もありました。世界中に広まる深刻な不況に対応するため、世界各国の中央銀行は日本銀行を追うように大規模な金融緩和策を打ち出した結果、巨額のマネーが世界を飛び交い、その一部が東京へ流れ込みました。日本経済の将来性、強さを反映した3万円超えではありません。当然、実力が伴わないのですから腰砕けとなり、2万台に逆戻り。

3万円超の裏付けなないわけでは・・・

 今回の3万円台超えに裏付けがないわけではありません。東証上場企業の2023年3月期は純利益ベースで過去最高水準になるそうです。2年間に及んだコロナ禍が収束に向かい、小売りや観光などサービスが業績を回復しています。企業の自社株買いラッシュも始まりました。自社株買いで一株あたりの利益を増やし、株価を引き上げるのが狙いです。金融緩和政策が日銀総裁交代で行方が注目されていましたが、植田新総裁がそのまま継続する考えを示したことで円安に転じ、輸出企業の利益を押し上げました。

 外国人投資家が戻ってきたこともあります。その象徴は米のカリスマ投資家のウォーレン・バフェットさんが推奨する日本の商社買い。バフェットさんが運営する投資会社バークシャー・ハサウェイは三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事を買い増しており、この安心感が他の海外投資家を刺激しているようです。海外投資家の株式買い越しは2017年10月以来の高水準だそうです

活況は一時的か

 もっとも、外国為替も海外投資家の買いもマネーゲームの一興。東京市場が継続的に上昇する実力を取り戻しているかをしっかりと見極める必要があります。米国の株式市場が過去30年間で10倍も膨張したのは、アップルなどGAFAに代表される新興企業の途切れない誕生です。改めて日本を振り返ることもないでしょう。今でもトヨタ自動車、ソニー、三菱商事などが株式市場の顔です。

 日銀のETF(株価指数と連動する上場投資信託)買いも見落とせません。日銀は大規模な金融緩和策の一環として日本企業の株式をETFを通じて購入し、日経平均を支えてきました。今では東証の優良企業の多くで日銀が筆頭、あるいは上位株主の地位にあり、本来の株式市場の構造を歪めています。日銀がETFを買い入れ基準は下落率2%とみられていますが、直近でも下落に合わせて日銀がETFを買っています。

市場の歪み、日銀のETF解消は不可能

 野村総研のチーフエコノミスト、木内登英さんののレポートによると、日銀が保有するETFは50兆円を超え、株式市場全体に占める規模は7%程度。この数字を大きいとみるかどうかわかりませんが、日銀が株式を一気に手放せば、日経平均が暴落するのは確実です。日銀が保有する株式を市場に影響を与えずに売却するのは年間3000億円だそうですから、このペースで50兆円超のETFを売り切るには170年間かかる計算です。東京株式市場の歪んだ構造を是正するのはほぼ不可能だということがわかります。

トヨタやソニーに代わる新興企業に期待したい

 トヨタやソニーに代わる新興企業が飛び出して、日本の産業構造を大きく変えるパワーを発揮できるか。一人のカリスマに左右されずに日本の株式が買い続けられる魅力と実力を生み出せるのか。日銀が筆頭株主となる歪んだ市場構造をいつ是正できるか。ざっと眺めただけでも、東京株式市場の未来は霞んで見えます。目の前が見えないのは何年続くのでしょうか。

 まずは33年前のバブル時代の過去最高値と比較して、東京市場の活況を語るのはやめましょう。

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