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日本列島改造論のまま

半導体などの工場用地 農地や森林などを対象に 国造りを忘れたリゾート法の教訓はどこに

 政府は半導体など重要物資の工場誘致に向けて土地規制を緩和する方針です。住宅やビルなど地域開発に制限がかかる市街化調整区域を自治体が工場建設を許可できるようにするのが狙いです。大型工業用地の不足に対応するというのが名目ですが、かつての「リゾート法」を彷彿させます。同法は結局、乱開発を誘発して日本を荒廃させました。日本の国土をどう再設計するかも無いまま、昭和の「日本列島改造論」をなぞるような乱開発を再び招くのではないかと心配です。

昭和の列島改造論を彷彿

 土地利用の規制緩和の引き金は、経済安全保障の下で政府が注力する工場建設。半導体、蓄電池、バイオなど政府が重要分野と位置付ける工場を建設する際は、選定する工場用地を増やすため、これまで対象外だった市街化調整区域も使えるようにします。

 市街化調整区域は、都市計画法で定められた「市街化を抑制すべき区域」のことです。住宅やビルなどを自由に建設できる市街化区域と違い、原則として建物を建築することはできません。 むやみに市街化区域を広げれば人口が増えてしまい、都市計画が無茶苦茶になるからです。 建設できるのは農林水産業の関連施設などに限られます。

 市街化調整区域の規制緩和は当然、これまで使用されずに残っている農地や森林などを対象に取り込むことができます。半導体や蓄電池、バイオなど新工場は大規模な建物が多いですから、従来の発想で造成した工業用地では手狭になることが予想されます。しかも、主力工場を支える関連技術の工場が周辺に集積する体制が生産・品質などの総合力を高めるため、産業の裾野を形成するように工場群が並ぶことになります。

工場増設を最優先すれば、リゾート法の二の舞

 日本の産業力は、1980年代の全盛時から想像できないほど世界から取り残されています。将来性が期待される半導体や蓄電池の生産体制を再構築する政策は大賛成です。しかし、一方で地球環境の保全など昭和の日本列島改造論時代には全く想定していなかった地域開発の発想が今、求められています。適切な工場用地が不足しているから、「それじゃ、縛りが掛かっていた市街化調整区域を解放しましょう」というわけには来ません。

 「リゾート法」の功罪を思い起こします。1985年のプラザ合意による円高で失速した経済を救済するため、内需喚起を狙って制定されました。1987年に制定された総合保養地域整備法です。地域開発をより柔軟な発想で進められるとして、全国36道府県で新たな構想が浮上しました。

 自治体や企業が自由な発想でリゾートをキーワードに個性的な計画が誕生したまでは成功でしたが、事業継続で壁にぶつかります。海外からの観光客がまだ少ない頃です。ユニークな構想が全国各地であちこちで動き出しても、国内の観光・余暇の需要を奪い合うだけ。立ち往生する計画が相次ぎます。リゾート法指定第一号だった宮崎県のシーガイヤがその象徴でしょう。国内外でも注目を集めましたが、2001年に経営破綻しました。需要見通し、地域への波及効果などを見極めずに上滑りの計画を進めてしまったリゾート法の「罪」のすべてを物語っています。

世界の需要、地域経済などの精査が重要

 リゾート法の成否のカギは、事業の収益性とともに地域経済をいかに活性化するかを真剣に精査して事業計画を決定したかどうかに尽きます。国の旗振りに乗って楽観的な事業計画を作成し、安易にスタートしてもうまく進むのは最初だけ。すぐに息切れします。

 今回の半導体や蓄電池の増産計画にも同じ危険性を感じます。半導体は人工知能やEVの高まりに合わせて世界的に需要が急増しており、増産計画が目白押しです。ただ、半導体産業の歴史を振り返ればすぐにわかりますが、好不調の波が大きく、投資リスクも大きいビジネスです。1980年代に世界の頂点に立った日本が今、見る影もない事実を確認するだけでそのリスクの大きさが理解できると思います。巨額投資が必須の蓄電池、バイオなど事情は同じです。

半導体が「シーガイヤ」にならぬように

 半導体の巨額投資で沸く熊本県や北海道が「宮崎県のシーガイヤ」の二の舞を演じる可能性は誰も否定できません。巨額投資が地域にどう活かされ、それが将来の地域経済をどう支えるのか。中長期の視点に立って未来の設計図を自治体や住民がしっかり議論して描くことが、日本の経済安保と考えています。

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