静岡県知事選 不幸はリニア争点だけ、幸福度日本一は地域自ら創造すれば夢じゃない

 静岡県知事選は前浜松市長の鈴木康友氏が当選しました。立憲民主と国民民主両党の推薦を受けていたため、自民党推薦で元副知事の大村慎一氏との与野党対決構図、さらに前知事の川勝平太知事が反対したJR東海のリニア中央新幹線推進などが争点となり、大きな注目を集めました。鈴木氏の勝利で「早期解散は遠のいた」との声が広がる一方、リニア推進への期待が高まるのかもしれません。仮にリニア実現に舵を切ったとしても、静岡県が受ける恩恵はどのくらいあるのでしょうか。静岡県はリニア構想を一度横に置いて、地域自らの未来を透視する冷静な議論に注力する時です。

与野党対立やリニアはもう横に

 鈴木氏は浜松市出身。旧民主党で衆院議員を2期務めた後、2007年の浜松市長選で初当選。市長を4期務めました。知事選では、市長時代の実績や経験をアピール。「幸福度日本一の静岡を目指す」を掲げ、静岡県が着工を認めていないリニアの推進、企業誘致やスタートアップ企業の育成など地域経済の活性化を訴えました。

 浜松市長に出馬する際に選挙地盤の浜松市に本社を置く自動車大手スズキの鈴木修会長(現・相談役)が支援した経緯があったため、鈴木修氏が支援した川勝前知事に続き、鈴木康友氏が知事に就任することで鈴木修氏の影響力を揶揄する向きもありましたが、知事選での投票動向を見ると浜松市など県西部だけでなく県東部も含めて幅広く支持を集めており、後々に尾を引くことはないでしょう。

「一つ一つ現実的解決策を」

 知事選で最大の争点となったリニア推進について当選後、鈴木氏は「環境問題について一つ一つ現実的に解決策を見つけていくことが結果的に推進につながる」と話しました。川勝前知事は大井川水系の資源問題を危惧して静岡県内の工事を認めませんでしたが、選挙期間中にトンネル掘削工事をしている岐阜県瑞浪市でも井戸などの水位低下が確認されており、国やJR東海などと協議に時間をかける姿勢を示しました。

 当面は、リニア工事を認めるかどうかをじっくり協議することになるはずです。すでにJR東海は開業時期の先送りを表明しています。今後、環境や地質などの影響調査が慎重に進むのは確実で、静岡県内の工事が中止から推進へすぐに切り替わるとは思えません。

 リニアに対する期待が大きいのはわかります。リニア中央新幹線の沿線では早期開業を求める多くの声が聞こえてきます。「神奈川県(仮称)」の建設が進んでいる相模原市の本村賢太郎市長は静岡知事選前の定例記者会見で「リニアを推進してもらえる知事になっていただきたいと願っている」と述べ、開業後の神奈川県駅の停車本数について「1時間に1本と言わず、まず2本、3本からでもいいが、将来的には1時間に10本とか止まってもらえたら」と期待を込めて自らの考えを明らかにしていました。

リニアに過大な期待は禁物

 相模原市長の思いは理解できますが、停車回数が増えるとは思えません。時速500キロで疾走するリニア中央新幹線は東京・品川ー名古屋を最速40分、品川ー大阪を1時間強で結ぶのが売りです。リニアの構造上、何度も停車するのは時間の浪費につながるため、途中停車は極力避けるのが原則です。東海道新幹線と違い、「のぞみ」「ひかり」「こだま」で停車駅を使い分ける器用なことはできないのです。リニア開業後、東京、名古屋、大阪以外の沿線にもメリットが生まれると過大に期待するのは辛いでしょう。

 リニアに過剰な期待を寄せるよりは、知事選でも争点となった人口減対策など静岡県の幸福度を高める施策に多くのエネルギーを注ぐ方が賢明です。静岡県は、富士山に代表される世界有数の観光資源を抱える一方、スズキなど自動車や機械で世界企業を輩出しています。日本のGDPを大半を生み出す東京、神奈川、愛知と隣接する恵まれた経済圏にあります。

静岡県の幸福度日本一は夢ではない

 鈴木知事が掲げる幸福度日本一は、夢物語ではありません。ただ、日本の多くの市町村が直面している人口減少は待ったなしです。民間有識者が参加した人口戦略会議は全国の市町村の4割が人口減によって消滅の危機にあると警告しましたが、静岡県では熱海市、伊豆市、下田市、牧之原市、御前崎市、東伊豆町、西伊豆町、松崎町、川根本町の9市町が消滅可能性を指摘されました。静岡県から転出する理由を見ると、「大学進学」が58・1%で、静岡県に戻らなかった理由は「やりたい仕事や勤め先がなかった」が40%超とトップを占めています。

 開業時期が皆目見えないリニア中央新幹線に時間を浪費せず、静岡県民が地元で幸福に過ごし続ける環境、インフラを拡充するのが先決です。静岡県の知事選を眺めていて唯一といってよい不幸は、争点として注目された「リニア」に候補者が精力を奪われたことでした。静岡県には人口減を止める底力があります。与野党、東部・西部などのしがらみをきれいサッパリ捨て去り、静岡県なら手にできる幸福度日本一に邁進してほしいです。

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