太平洋・島サミット 外務省の広報は国民よりも首相、外相を見てる?

 東京・JRお茶の水駅から神保町の交差点に向かって坂を下ると、明治大学の斜め向かい側に「国際機関 太平洋諸島センター」があります。1996年10月、南太平洋の島嶼国などが参加するサウスパシフィック・フォーラム(現在の太平洋諸島フォーラム)と共に、貿易、投資、観光の支援を目的に設立されました。支援の対象はパプア・ニューギニア、サモア、トンガ、フィジーなど14カ国とニューカレドニア、フランス領ポリネシアの2地域です。

東京・お茶の水に太平洋諸島センター

 太平洋諸島センターが入居するビル1階のエントランスを入ると、センターの事務所があり、展示室が隣接しています。それぞれの国が輸出したい商品が並べられ、各国の経済や生活などを紹介するガイドブックなどが揃っています。ココナッツを素材に使った日用品、木彫などを手に取ると、「ラバウルのあの場所にあったなあ」といった懐かしい思い出が蘇ります。

 もう30年近い前になりますが、パプア・ニューギニア、サモア、ナウルなど南太平洋の国・地域を文字通り、飛び回りました。気温、湿度、生活習慣など日本とは全く異なるので、訪れた国・地域でいつも驚き、感動するのですが、北海道など北国で育っただけに、体力も消耗してしまい、身動きできなくなった苦い経験もあります。いずれも強烈だっただけに忘れられません。例えば、肌が弱い体質だったので、ココナツで生産した石鹸にはとても救われまた。ココナツミルクをかけたマグロも美味かった。

残念ながら、人影は無し

 展示室を訪れる人は少ないようです。神田の古書街を訪れた時は懐かしさも手伝ってセンターの展示室にも立ち寄るのですが、だんだん寂しい空気が濃くなっています。「いつでもどうぞ」と呼びかけていますが、ドアに鍵をかけられている時も。声をかけると、職員は気軽に招き入れてくれますが、展示の品揃えはやっぱり寂しいまま。

 展示品はとっても良いんですよ。島嶼国のガイドブックもその国を知りたい、訪れたいと考える人にはピッタリ。経済指標などはひと目でわかりますし、街の居酒屋さんなども紹介し、一冊あれば楽しめます。

 南太平洋を飛び回っていた1990年代半ば、話題は満載でした。仏領ポリネシアではシラク大統領が核実験の再開を宣言し、実験場に近いタヒチ島には世界から抗議する政治家や人々が集まり、焼き討ちなど暴動が発生。空港ビルも火災に襲われました。2024年5月に独立運動を巡る暴動が発生したニューカレドニア同様、タヒチなど仏領ポリネシアでも核実験反対の抗議デモに独立運動を求める人々が加わり、世界中の耳目が集まりました。

 パプア・ニューギニアでは、独立運動を巡る新しい国際協力が胎動していました。山本五十六連合艦隊司令長官が撃墜され、亡くなったブーゲンビル島で長年続く独立運動を解決するため、、国連を加えずに南太平洋地域の国々だけで平和を維持する初めてのP KOが展開されました。

 最近の話題の主役である中国も、進出を加速し始めていました。例えば、当時の西サモアの首都アピアには中国が大きなビルを建設し、その存在感をアピールしていました。アピア市民は「誰も使わないのに、どうするのだろう?」と訝っていましたが、中国の経済協力は眼に見える形で広がっていました。

外務省にサミット取材を申し込んだけど、なしのつぶて

 日本の新聞記者としては南太平洋を取材している方と思っていました。それもあって、久しぶりに島嶼国の雰囲気を体感したいと考え、3年に1度、東京で開催する「太平洋・島サミット」の取材を外務省に申し込みました。すんなり受けれ入れると思っていませんでしたが、40年間勤めた新聞記者がフリーランスになると、外務省など霞ヶ関がう取材対応するのか興味がありました。

 外務省へ電話し、担当部署へ繋いでもらいます。電話に出た職員さんに1990年代に南太平洋を取材し、記事を書いた新聞記者としての経歴を伝え、現在はサイトを個人で主宰するフリーランスであることをお話ししました。サイトを実際に見てもらえればわかると思い、サイトのアドレスも教えました。

 電話口から「どの程度の取材を考えているのですか」と訊ねるので、「日程全てに同行する考えはなく、記者会見の参加だけで十分です」と答えます。各国の首脳の表情を生で見たいと考えたからです。少しは希望を持っていました。最近はネットメディアなどにもオープンにしていると聞いていましたから、記者会見なら大丈夫だろうと踏んだのです。こちらの連絡先を伝え、「必ず、連絡します」と話してくれました

 それが3ヶ月前の4月ごろ。最後の言葉は「まだ対応が決めっていません。決まったら、連絡します」。電話で答える職員さんに悪気がないのはわかっています。霞ヶ関を取材した経験がありますから、マスコミ以外のメディア取材に極力、関与したくないのもわかっています。全てが想定問答集に従って答えているのもわかっていました。

国民と南太平洋を結ぶ線はどこに

 太平洋・島サミットは16日から始まります。まだ、何の連絡もありません。予想していましたが、やはり残念です。新聞などマスコミには丁寧に対応するのに、サイトを主宰するフリーランスを無視したからではありません。

 日本政府は太平洋・島サミットを誰に伝えようと考えているのでしょうか。新聞やテレビで取り上げら、岸田首相、上川外相らが「これで良し」と評価すれば、外務省のお仕事はOKなのかと邪推したからです。

 南太平洋の島嶼国・地域と日本の国民は、マスコミ以外で繋がるチャンスはないのでしょうか。お茶の水の太平洋諸島センターと同じ空気を感じます。国はやっているつもりでも、国民が知らなければ何の意味があるのでしょうか。日本に期待する島嶼国の皆さんに失礼です。

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