南太平洋16 パプア・ニューギニア コーヒーとマッドマンは地味に輝いています

 パプア・ニューギニア産のコーヒーが大好きです。1993年ごろに初めて美味しさを知り、以来30年近く飲み続けています。コーヒーの味覚を説明できるほど舌は精妙ではありませんが、じわっと感じる濃さと甘さが飽きません。きっかけはインド駐在の知人からのプレゼント。親しいインド人がパプア・ニューギニアの高山地域でコーヒー農園を経営しており、世界に売り出そうと考えていると話していました。「へえ、パプア・ニューギニアでコーヒーが収穫できるんだ」と驚いたのを覚えています。

晴れの舞台に向けて準備

30年近くパプア・ニューギニア産コーヒーを飲み続けています

 ところが、最近、手に入りません。ブラジルの不作の影響で豆は値上がりし、良質の豆は目の前から消えていっている印象です。そうなると、急にパプア・ニューギニアが恋しくなりました。コーヒーが消えると、あの国の強烈な思い出も消えそうな気がします。コーヒーに負けない魅力を綴ることにしました。

化粧中です。

 パプア・ニューギニアといえば、多くの人は極彩色の鳥や鬱蒼とした熱帯樹林を思い浮かべるかもしれませんが、それ以上に強烈な衝撃を受けるのが民族衣装です。衣装という表現が適切かどうか自信はないのですが、同国には800を超える民族がおり、それぞれのアイデンティティとして極楽鳥などに負けない極彩色豊かな飾りに目を奪われます。

 確か建国記念イベントだったと思います。全国から多くの民族が集まり、それぞれ独特の衣装と飾りで参加します。イベント会場はサッカー、ラグビーや陸上競技などを開催する近代的な競技場でしたが、会場周辺を含めて数えきれない人々がそれぞれの民族衣装を身につけて集まり、お互いに競い合うのです。突然、原始時代の人々が熱帯樹林から抜け出してスタジアムに現れたようで、現代と原始の時間軸が重なり合う不思議な体験でした。

800超の民族がいます

 イベントは建国記念のお祭りです。「ワン・フォー・オール(1人はみんなのために)、オール・フォー・ワン(みんなは一つの目的のため)」というラグビーでよく言われるフレーズが会場の掲示板に大きく表記されていました。わざわざ強調しなければいけないほど民族同士の気概が強く、時には争いが起こります。国も一体感も薄いのです。これは日本はじめどこの国でもあることですが・・・。

 多くの死傷者を生み出さないため、民族間にはコンペンセーション・ルールがあるそうです。もし争いが起こり死者が発生した場合、襲った相手側に同じ人数だけ死者が発生するまで争い、その時点で戦いは終わりです。1人死亡したら、相手も1人犠牲になります。どの民族も人数が限られています。お互いの損失を極力抑えるのが狙いです。

 パプア・ニューギニアのテレビ番組を見てたら、民族間の争いを今も続けている奇妙な現実をコメディータッチで伝えていました。民族衣装を着た戦士たちが手に槍を持って睨み合っていました。両者の間にはトラックがビュンビュン走る道路が遮っています。一方が攻め入ると、走るトラックが割り込んで来るので、一度後退せざる終えません。結果的に衝突を止めます。

 今度はもう一方が攻め入ると、再びトラックが邪魔します。それを何回も繰り返す映像がテレビで流され、本来なら1人の死者が出るまで闘うはずが、睨み合ったまま。両者は膠着状態をどうするかを悩みます。トラックが途切れることがないため、「今回はもう終わろう」となり、互いに逆方向へ隊列を組んで去っていきます。テレビ番組は現代社会にはもう似合わないと説得していました。

衣装と飾りにある民族の誇りを見落とす

 この強烈な極彩色に飾られた民族衣装は、外国人から見たらとても魅力的です。パプア・ニューギニアのイメージをそのまま映像で見ている気分です。記念写真を兼ねて、歩きながら多くのグループと写真を撮影していたら、マッドマンが近寄ってきました。まるで水木しげるさんの漫画から飛び出てきたようです。泥で出来たマスクの中で男性が驚かそうと思ったようですが、こちらが呆気に取られている様子を見て、外国人がイメージするように体を右に左に揺らしてダンスをしてくれました。笑いながら、「これを期待して待っているんだろう」と言われました。思わず「パプア・ニューギニアだあ」と喜ぶ一方で、結局はステレオタイプの感動しか期待していない自分を気づき、マッドマンの顔に泥を塗った恥ずかしさを覚えました。マッドマンも極彩色に負けない民族衣装ですから。

 パプア・ニューギニアの魅力は一見、わかりにくい。気候も文化も日本とは大きくかけ離れているように思えます。しかし、どこか源流でつながっていると感じる瞬間が多いのも事実です。コーヒーもマッドマンも見た目は地味です。でも、あの濃厚な色合いの中には魅力がたっぷりあります。いわゆる味わい深いのです。治安は心配でしたが、その魅力を再び味わいたいと思い、何度も取材に向かった国でした。

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