タヒチの道路をブロック

南太平洋 2 楽園タヒチと核実験 困窮と雇用のジレンマ

 タヒチは南太平洋の楽園としてとても有名ですが、フランス政府が仏領ポリネシアとして統治されている実態はあまり知られていません。日本から9500キロも離れています。航空機で11時間以上飛ばないといけません。日本人にとって身近な楽園になってしまったハワイと違って、いつかは行ってみたいあこがれの人気リゾート地として美しい自然の風景しか思い浮かばなくても不思議ではありません。

タヒチ・パペーテの中心街

タヒチ・パペーテの中心街

 仏領ポリネシアの首都、タヒチ島パペーテの街並みはエキゾチックでした。散歩しているだけでフランスの地方都市と南の島をともに観光したような得な気分になります。疲れたらレストラン脇に広がるテラスでワインを飲めば完璧にリゾート気分に酔えます。仏領だから、料理やワインは本当にうまい。価格は高いけど、悔しいぐらいうまい。ホテルはピンキリです。タヒチでこんな雰囲気で過ごしたいと想像したホテルを探すことができるはずです。

 といっても、タヒチの旅行費は高い。南太平洋のど真ん中に位置しますから、航空運賃など諸経費がかさみます。かなりハードルが高くなってしまいますが島に到着した後は現地のレストランなどを利用すれば節約できます。南太平洋の島々の「あるある」ですが、どんな小さな島に行っても中国人とインド人が必ず食堂を開いています。

 私はココナツミルクが大好きですから新鮮な魚を漬けこんだ地元料理をよく食べていましたが、「味変」を兼ねて中国料理やインド料理を食べました。今はあるかどうか知りませんが、核実験再開の取材で訪れた時は夜に屋台村が開き、お金と相談しながらつまみ食いしながら楽しんだものです。

 金持ちの人にも金持ちでない人でも楽しめるパペーテですが、仏政府が核実験再開を発表した後は反対・抗議運動の人々が世界中から集まり、さすがリゾートの雰囲気は吹き飛びました。

 何も知らずに新婚旅行で訪れたカップルに向けて「核実験のために観光は制限されています」という趣旨のお知らせが張り出され、「どこに行けば良いのか」と慌てる新婚夫婦をあちこちで見かけたものです。

タヒチの道路からあふれるデモ

タヒチの道路からあふれるデモ

 

 実際、町の至る所でゲリラ的に反対・抗議運動が起こります。世界中から政治家やマスコミが多く訪れた機会を捉え、反対・抗議運動を通じてタヒチの厳しい現実を知ってもらう狙いがありました。タヒチは確かに楽園のリゾートとして素晴らしい自然とサービスを満喫できますが、それはあくまでも一面に過ぎません。

 仏領として事実上の格差社会を強いられ、現地島民の生活は厳しい水準にあります。雇用機会は主力の観光以外には仏政府関連ぐらいです。再開に反対・抗議している核実験は仏軍関連の重要業務で、実は島民にとって有力な就職先です。仏本国政府からの経済援助に頼らず、自ら地域の将来に責任を持ちたいという独立運動が島内に草の根レベルで広がっているものの、世界にはほとんど知られていません。

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