公明党の選挙と自衛隊員の募集のポスター

資本主義をもっと議論しましょう。経済学者のみなさん、もっと発言を!

中国が資本主義、日本は共産主義?

「中国は共産主義の国だなんていうけれど、経済の実態を子細に見れば至る所で資本主義の考えが浸透していた。中国に比べたら、日本こそ共産主義だよ」。1990年代、日本の自動車メーカーが中国での販売や生産を本格化し始めた時期です。ある自動車メーカーの社長は呆れていたものです。「政治家、政府、官僚が密着して民間の声に耳を傾けない。このままじゃ日本経済は必ず立ち往生する。どう改革していくかを議論してほしい」と注文を続けていました。

1990年代初めはバブル経済がはじける直前です。将来を見据えた経営者なら、”イケイケ”ばかりのバブル経済が続くわけなけがないことは肌感覚でわかっていました。しかし、銀行はじめ金融機関はお金を垂れ流す一方。返済の見込みが見えない融資案件が企業にも個人にも詰み重なっていました。当時の日本興業銀行の副頭取がボソッと呟きました。「おい、ジュウセンをどうするんだよ。翔んだら日本は大変なことなるぞ。新聞記者なら、ちゃんと書けよ」。

バブル経済がはじける主因の一つ、ジュウセンは政官民一体

ジュウセンとは住宅金融専門会社のことで、個人の自住宅ローンを貸し付けており、債務総額は12兆円を超えていたはずです。ジュウセンの出資は農協や銀行などが主体でした。しかも、ジュウセンには当時の大蔵省出身者が経営トップを務めていました。政府、金融機関がバブル経済崩壊の危険性を知らないわけがありません。今はみずほと名前を変えていますが、興銀はその政官民のど真ん中にいた金融機関です。その副頭取が警鐘を鳴らしたのですから、私も驚きました。弁解になりますが、当時は自動車やエネルギー、航空・海運などを主力に取材していましたので、金融機関は担当外。編集会議などで企画提案はできるとはいえ、主導できる立場ではありませんでした。案の定、バブル経済を誘発した原因の一つであるジュウセンは相次いで経営破綻し、バブル経済は終焉を迎えます。その後は皆さん、ご存知の通り。日本経済の低空飛行が今も続き、どこに着陸して良いのか行き先がよく見えていません。

新しい資本主義を本気で考えていますよね

「新しい資本主義」を掲げて衆院選に勝利した岸田政権。その第一弾の施策が「18歳以下の子供に対する10万円の給付」。「えっ?」。続いて「3%の賃上げ」「誰がやるの?」。そして「ガソリン価格の高騰を抑えるために170円超になったら石油会社に補助金」「ホントに価格抑制できる効果はあるの?」まるで昭和時代に埋めた徳政令のお札を目の前でばら撒かれた気分です。

10万円給付は与党の公明党の山口那津男代表は衆院選挙中、「未来応援給付」を連呼していました。ポスターにも子育ての重要性を訴えていました。選挙公約に掲げ、与党勝利で国民から多数の支持を得たのだからと実行を表明しましたが、給付金は総額2兆円。決済剰余金を使えば決済できるという発想らしいですが、コロナ禍で国の金を兆円単位で使っているので感覚が鈍っているのでしょうね。一方、岸田首相は「業績がコロナ前の水準に回復した企業は3%を超える賃上げを期待する」と「分配」の実践に前進します。保育・介護、看護職員の賃上げも3%程度引き上げる方針も明らかにしています。そのほか旅行費などを補助する「GO TO トラベル・イート」も来年1月後半から開始するようです。ガソリン代が高騰したら「石油元売りに補助金を出すから安くしろ」です。ドル円が115円と円安が進行していますから、世界的な物価高の中で日本の物価上昇に拍車がかかるかもしれません。「新たな補助金がもらえるのかな」と誰もが期待します。

冷え込んだ景気を温めるためには即効薬が必要です。しかし、今求めれているのは日本再生に向けた治療方針、どのような手術と薬を施して完治にこぎつけ復活を遂げるか、です。

岸田首相は衆院選前から「新しい資本主義」の確立を声高に訴えています。議論が始まったばかりで具体策は年末に現れ始めるらしいので、百歩譲ったとしても目先に投じられるタマがいずれも「昭和の香り」がする古い施策ばかりです。これでは「新しい資本主義」への提案も「昭和の議論」から脱け出してくる新奇なアイデアがあるかどうか期待できるのかどうか。

「経済成長と分配」の旗を振る岸田首相にとって3%の賃上げは目玉の施策のはずです。経団連の十倉会長は賃上げ実施への意気込みを表明したようですが、中小企業の会員が多い三村東商会頭は「中小企業には難しい」と明言しています。経済の実態を冷静に見詰めたら、成長を実感できない企業が例年の2倍程度になる賃上げができるわけがないです。

「新しい資本主義実現会議」が示すのは一見、未来を創造させるかのような幻影になりそうで不安です。派手な格好の資本主義を裏返したら、実は過去の施策を書き直した継ぎ接ぎだらけということはないでしょうね。むしろ、中国がすでに発表している経済計画の後追いになってしまうのではないかと不安です。蓋を開けてみたら、「新しい資本主義実現会議」は「新しい共産主義実現会議」の被り物だったとしたら、これまた税金の無駄遣いです。

経済学者の皆さん、もっと意見を発信しませんか。資本主義、あるいは資本論でも結構です。直近では英エコノミスト誌が、iPhoneやm RNAのコロナワクチンを生み出した原動力としてベンチャーキャピタルを取り上げ、「資本主義に新しい躍動感を吹き込み、進化させる」と指摘しています。毎日新聞で慶応義塾大学の井手英策教授が10万円給付について論陣を張っています。しかし、残念なのはメディアや政府の会議で頻繁に登場する学者さんは竹中平蔵さんぐらいです。

明日、明後日を映し出すためにも多くの発言が必要

福沢諭吉さんは「文明論之概略」で「学者の職分は将来を予測して国民や国に広がり知恵を変えること」と指摘しています。ただ、「自己の本分を忘れて世間に奔走し、甚しきは官員い駆使されて目前の利害を処置せんとし、其事を成す能わずして却って学者の品位を落とす者」と警鐘を鳴らしています。明治時代にも政府に阿る学者は多かったのでしょう。今は令和の時代です。経済に関して100年以上の経験と見識が日本には蓄積されています。経済学者に限らず小中高の先生のみなさんはどんどん意見を発信してください。目先のお金に目が眩み、明日を見る目が曇るのはごめんです。多くの議論が明日、明後日をはっきりと映し出してくれるのは間違いないのですから。

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