トヨタのウーブンシティ、裾野市を織り込む実験都市は迷路に、実社会との共鳴を
裾野市の村田悠市長が「次世代型近未来都市構想(SDCC構想)」を廃止する考えを明らかにしました。2年前の2020年3月に情報技術などを駆使してまちづくりを進める目的でスタート、トヨタ自動車が裾野市に建設している次世代技術の実験都市ウーブンシティと連携する構想でした。しかし、想定した技術の多くは実用化のめどが立たず、日常の市民生活に合わないと判断しました。トヨタのウーブンシティは豊田章男社長自ら主導する実験都市です。裾野市独自の構想が消えたことで実験都市の検証が難しくなり、迷路にはいりこむ恐れが出てきました。
裾野市の構想は2年半で終了
SDCCはスソノ・デジタル・クリエーティブ・シティの頭文字から名付けられ、意欲的な名称が示す通り高村謙二前市長が人工知能を使った都市生活の整備、自動運転技術、新エネルギーの活用などを目標に設定しました。トヨタや東京大生産技術研究所など87団体が参画し、40項目以上の実証実験を展開したそうです。15年程度をかけて構想具体化に取り組む考えでしたが、2年半で終了しました。
村田市長は9月初めの市議会の代表質問で「まだまだ浸透していない用語が多く、市民には分かりにくい内容だった。今後はSDCC構想にとらわれず、その時々に合った方法で足元の課題を解決していく」と説明しています。
トヨタ自動車が2021年2月23日、静岡県裾野市の工場跡地(約71万平方メートル)でウーブンシティの建設を始めました。豊田章男社長が2020年1月に米国で開催した世界的な技術イベントCESで発表した実験都市構想です。富士山の裾野で人工都市を建設し、新しいモビリティ(移動体)や生活インフラの実験するそうです。
豊田社長は「未来都市に人々が生活しながら自動運転やモビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS、移動のサービス化)、スマートホームコネクテッド技術、AIなどの技術を実証する」と説明したそうです。それから一年後に着工です。ものすごいスピード感ですね。「ウーブンシティ」とは英語のweave(織り込む)の過去分詞・形容詞で、多種多様な人間行動を最先端の技術と見識を織り込み、未来を具現化する挑戦への気概を示したのだと思います。世界に向かって発信する豊田社長の熱い思いが伝わってきます。
しかし、この構想を知った時、人工都市で実施して成果があるのだろうか?でした。都市には将来トヨタ系列の従業員を含む2000人以上が住民として暮らすそうです。NTTなど通信やITの大手企業が参画しますが、いずれも日本最大級の企業トヨタと深い取引関係があります。実験の検証結果に対する信頼性に疑問が付きます。
「市民生活に寄り添っていない」との声も
裾野市のSDCC構想はウーブンシティのいわば前哨戦です。事業の一つに「ウーブン・シティ周辺の整備および地域との融合」がありましたが、活用したICT技術の実証では、市民にわかりやすい形で伝えることが難しいカタカナ用語が多く使われ、市民生活に寄り添った取り組みでないとの指摘もあったそうです。コロナ禍で日常生活も変わり、構想当初と状況が違うとの認識もあるようです。
絵に描いた餅、という表現があります。挑戦はとても素晴らしい。しかし、目線を実生活に合わせず、お金の力で理想の実験都市を作っても、産業として設立しません。織物はとても強い製品です。ウーブンシティは周辺地域と一体化しなければ、孤立した都市ができあがるだけです。自動車産業は移動することを前提に生まれました。孤高した産業ではありません。もっと周辺の自治体とていねいに織り込んだ構想に仕上げなければ、遠くから眺める富士山と同じ存在になってしまいます。