
鶴居村が問う再生エネとの共生 人間もタンチョウも傷つける太陽光発電を民有地購入で阻止
北海道東部の鶴居村が太陽光発電の建設計画を防ぐため、民有地約7・5ヘクタールを購入する方針です。 鶴居村は名前の由来通り、タンチョウが飛来する村で、隣接する釧路湿原で営巣、子育てしたタンチョウが鶴居村でも生息します。その釧路湿原で大規模な太陽光発電計画、いわゆるメガソーラーが建設されることに対し環境保全、野生動物への影響などが懸念されています。
条例を超える建設も阻止へ
タンチョウは鶴居村、北海道にとって貴重な財産。村は条例を制定して太陽光発電の建設をすでに規制していましたが、想定外の事態も考えて率先して建設予定地を購入して未然に防ぐ姿勢を明確に示しました。
鶴居村では2025年1月、釧路湿原でメガソーラー建設を進める日本エコロジー(大阪市)が建設計画を村へ伝えました。住民説明会の開催などの手続きを求めたら、2月に計画を見送ったそうです。
建設予定地はタンチョウの聖地と呼ばれる音羽橋から鶴が群舞する姿を写真や動画で撮影すると、背景として写るそうです。鶴居村にはタンチョウの群舞を目的に多くの観光客が訪れており、タンチョウを撮影した写真にソーラーパネルが一緒に写ってしまったら、興醒めです。
もちろん、もっと重要な損失を招きます。釧路湿原でも同様ですが、ソーラーパネルの反射光や設置によって周辺の環境が変わる可能性があります。鶴居村の景観とともにタンチョウなど野生動物保護が最優先と判断し、民有地の所有者と土地購入について交渉しています。
鶴居村は寄付も受け付け
鶴居村は、タンチョウの保護と景観保全を目的にした寄付も受け付けることにしました。村のHPで以下のように説明しています。
2025年 9 月 11 日の各報道機関による報道を受け、鶴居村には、多くの方々から「何か支援したい」「寄附をしたい」という温かいお申し出が多数寄せられました。
この皆様からの声にお応えするため、急きょ、タンチョウの保護と景観保全を目的と した寄附金の受付を開始いたしました。
厳冬期の朝、川霧が立ち込める中でタンチョウが舞う姿は、鶴居村の冬を象徴する幻想的な風景です。この景観の中心にある音羽橋は、全国の写真愛好家や観光客にとって、かけがえのない場所となっています。
この大切な景観を次世代に引き継ぐため、現在、音羽橋周辺で計画されている太陽光発電事業の予定地を、鶴居村が村の財産として取得する計画を進めています。
この取り組みには多額の費用が必要となりますが、タンチョウのねぐらを保全し、鶴居村の象徴的な景観を守ることは、村の未来にとっても極めて重要です。このかけがえのない自然と景観を未来に継承するため、皆様からの温かいご支援を賜りたく、ご寄附を募らせていただきます。
皆様からのご寄附は、音羽橋周辺の土地購入費用として大切に活用させていただきます。なお、もし土地購入費用を上回る寄附が集まった場合は、その趣旨に沿い、タンチョウの保護や村の自然環境保全のために活用させていただきます。
この寄附は一般寄附して取り扱われ、返礼品はありませんのでご了承ください。また、寄附受付金額は、土地取得に向けた交渉への影響を避けるため、公表いたしません。
太陽光発電や風力発電、水力の自然エネルギーを利用した再生可能エネルギーは、地球温暖化阻止に向けた切り札として推進しています。しかし、水力発電のダム建設を例に見ても、村全体の移転など土地に住む人々の生活や自然を大きく変えてしまいます。風力発電も騒音被害や巨大なプロペラによって鳥など野生動物の生息に大きな影響を与えています。
太陽光発電は日本が海外に比べて出遅れた再生エネの拡大の柱として期待され、急速に拡大しています。ただ、山地が多い国土の制約で太陽光発電の適地が限られてきました。広大な北海道が適地があるはずと注目されていますが、建設計画を立ち上げても、釧路湿原など世界的な自然保護の対象となる地域の隣接地で工事が始まれば、人も自然も被害を受けます。
経済合理性が人と自然を傷つける
再生エネは本来、人と自然が共存しながら地球環境を守る責務を負っていたはずです。ところが、地球環境を守るという建前を掲げなら、建設予定地の安さや広さなど経済合理性によって簡単に覆されてしまうのが現実です。
絶滅したとみられていたタンチョウが釧路湿原で確認されたのが100年前の1924年。保護活動を続けながら、1950年代から鶴居村や阿寒町で給餌が始まりました。鶴居村には何度も訪ねていますが、村民にとってタンチョウがとても身近な存在であることをいつも痛感します。観光資源として貴重さもありますが、タンチョウと共に「この小さな村を盛り上げるぞ」と頑張る若者のエネルギーを肌で感じたものです。
鶴居村は豊かな自然に大きな牧場が点在し、酪農が大きな柱です。酪農家さんが運営する牛舎など施設の規模は本州と比べようもなく大きいものばかりです。村は「美しい景観等と太陽光発電との共生に関する条例」を制定していましたが、1本の法律ですべてを規制できるわけではありません。
釧路湿原、鶴居村での太陽光発電計画は改めて再生エネとの共生の難しさを突きつけられました。それでも鶴居村が自然との共生を選んだのがとてもうれしい。