最後の一葉

COP26  既視感ある結末 脚本通り? 「京都議定書」「パリ協定」は最後の一葉

  • COP26が終幕しました。開幕当初に指摘しましたが、主要国代表が変革に挑む姿勢を強調する演技が目立つ一方、議論の中身に新鮮さが感じられませんでした。個人的には既視感のある国際会議と同じ風景と重なり、そのまま冷めて眺めていましたのでその結末にも驚きはありません。なにしろ最後の最後まで石炭火力発電を「廃止する」のか「削減する」のかでまとまらず会議期間を延長した末、議長国英国が盛り込みたかった「廃止」は見送られます。英国のシャーマ議長は目頭を押さえて「削減」で合意採択を終え、ようやく会議は拍手の中で幕を閉じるのです。冷めた見方と受け止めるかもしれませんが、それぞれの役回りを担った主役、脇役があらかじめ書かれた脚本通りに演じ、予定通りに収めた印象すら受けました。

インドのパフォーマンスが典型例

インドがその典型例でしょう。会議冒頭、モディ首相が2070年までにカーボンニュートラルを実現すると演説しました。インドが時限を明確に示したのは初めてだったので注目を集めました。ただ、目標を達成するためには先進国から発展途上国に対して資金と技術支援が不可欠だとクギをさしています。インドと中国は地球温暖化を招く二酸化炭素の最大排出国です。会議で非難の矢面に立つのは避けたかったはずです。COP26に先立つ首脳会議で中国の習近平国家主席は欠席しています。中国は最初から非難されるのがわかっていましたから、この会議でパフォーマンスする必要はないと既に決めていたはずです。

そのインドは今度、前言を翻すようにCOP26の最後の全体会議で横ヤリを入れます。議長国の英国が石炭火力発電を「段階的に廃止する」との文言を加えた採択案を提示すると、強く反発しました。インドなど発展途上国は、生活水準の向上や飢餓撲滅などに取り組んでいるとして石炭など化石燃料を使った火力発電を段階的に廃止する約束はできない、と切り返したのです。もうひとつのCO2排出大国である中国も流れに乗ります。米国や日本の本音は石炭火力発電を急いで廃止する考えはありません。地球温暖化による海面上昇で水没の恐れがある島嶼国などは強く反発します。しかし、それぞれの国情を考慮すれば経済的な資金支援を頼っている中国や主要国に本気で喧嘩できるわけがありません。

インドは今回のCOP26の対立構図を読み切って最後の落とし所まで推察していたのでしょう。それが最終会議で採択合意のどんでん返しとなるカードを切りました。インドはじめアフリカなども含めた発展途上国が強く求めていた「先進国からの年間1000億ドルの支援」を速やかに達成する要求を合意内容に盛り込むことに成功しています。

パリ協定で合意されていなかった温室効果ガスの排出権取引のルールも合意できました。発展途上国に対する排出ガス削減の技術支援などを通じて資金や技術供与した先進国はその削減分を自国の削減量として計上できます。これまで先進国の反対で立ち往生していましたが、ここ数年、欧米や日本の金融業界はカーボンニュートラルブームに沸いているのを思い出してください。数多くのファンドが設立され、これまでの汚染責任を環境対策の名で陰に隠す「グリーンウオッシュ」という言葉が流行しているぐらいです。排出権取引は2013年以降のクレジットに限って認めるという条件がついているとはいえ、グリーンウオッシュの汚名など気にせずに成長著しいマネーマーケットが公然と現れるわけです。世界の有力金融機関は大歓迎しているはずです。この排出権取引の合意も世界の金融センター、シティを抱える英国があらかじめ仕込んでいないわけがありません。

石炭火力で取り残された米中はメタンで存在感を示す

会期中、米国と中国が突然、メタンガスの排出削減に合意したと発表しました。メタンは二酸化炭素の20倍以上も温室効果をもたらすといわれています。太平洋の安全保障問題などで激しい応酬を繰り返す米中が関係改善の一歩を示したという好意的な見方もありますが、COP26の中心議題である石炭火力発電の廃止議論から取り残されていた中国、そして米国がその存在感を示すために思惑が一致したのでしょう。米国の気候変動担当特使は米大統領選にも出馬したほどの有力政治家、ジョン・ケリー氏です。米タイム誌では気候変動の特集でケリー氏を気候変動対策のキーマンとして大きく取り上げています。特に妙策を持たない米国のバイデン大統領の人気取りのためにCOP26の期間中、大見得を切るパフォーマンスを演じるのは必至でした。

世界、地球のためと主張する先進国、経済格差の是正を求める発展途上国、会議場の周囲を政治家や大企業は信用できないと抗議するデモ隊。COP26で映し出された風景はかつてアジア開発銀行など国際会議を取材した時に目撃した風景と同じです。キーワードが世界経済のグローバリズムから地球環境保護へ取り替えられただけです。

2015年、パリ協定が採択され、地球の平均温度上昇を産業革命以前に比べ2度以下、1.5度に近づけるよう努力することに合意しました。6年間過ぎ、上昇幅は1.1度に達しており今も上昇への減速感はありません。今回のグラスゴーでの合意はどの程度の実効性があるのか精査するする必要があります。合意の骨子を見ている限りでは前進しているのか、足踏みしているのかよくわかりません。あと0.4度上昇すれば「パリ協定」は燃えてしまいます。ところで日本は新しい取り組みを提案したのですか。山口環境相は貢献したと胸を張っているようですが、1997年に気候変動に対する国際的な取り組みを初めて決めた「京都議定書」を生んだ国として誇りをどこかに置き忘れていませんか。地球問題を本気で議論した京都とパリが温暖化対策の最後の一葉だったなんて、と後悔したくないですね。

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