省庁改革「何も足さない 何も引かない」アナクロとアナログを味わうWhiskeyのよう

デジタルは0か1とはいえ、デジタル庁は?

 21年9月にスタートしたデジタル庁はどうでしょうか。一年前に就任した事務方のトップは「ワードプレス もできませんから」と素人を売り物にしていましたが、一年も経たずに退任。デジタル庁が運用するシステムはトラブルに直面しており、専門誌の日経クロステックによると、システムの不具合による利用者の個人情報漏洩のほか、メール誤送信による利用者のメールアドレス流出などもあったようです。一年足らずで評価するのは早計と批判されるかもしれませんが、庁内の士気低下も漏れ聞こえており、民間出身者が退職するニュースも伝わっています。発足当時、河野デジタル担当相が印鑑廃止をぶち上げましたが、結局は中小零細のハンコ屋さんがひどい目にあったほかは、身の回りの生活はほとんど変化がありません。

 子供の頃、NHKの人気番組「ブーフーウー、三匹の子豚」を好きで見ていましたが、テレビの中で人形が歌って踊っていると思い込んでいました。ところが日本政府のデジタル行政は、「ブーフーウー」で勘違いしていたことが実は本当だったのでした。目の前にデジタルという技術でお化粧していますが、中身はこれまで通りのお役所仕事のまま。パソコン画面の裏で役所の職員が一生懸命に書類を手作業で処理しているのでしょう。

 2023年1月に発足するこども家庭庁の概要が固まりましたが、こちらも業務に何が変わったのでしょうか。例えば少子化にむけた重要施策として1990年代から厚生労働省は保育所、文部科学省は幼稚園と権限が分かれている行政について改善することが議論されていましたが、結局は「幼稚園・保育所の一元化」は実現されていません。役所の縄張り争いと言ってしまえばおしまいですが、本来の少子化対策に目線を移せば新組織はまさに本末転倒のスタートとなりそうです。

 感染症危機管理庁はどうでしょうか。2020年7月の東京都知事選の際、小池百合子知事は東京版CDCの創設を公約に掲げ、知事当選後の10月に「東京iCDC」を立ち上げています。米国のCDCは職員15000人を超え、世界の感染症の状況を見ながら対応策を打ち出す組織力と研究・調査力を持っています。申し訳ないですが、同じCDCの看板を掲げるのはちょっとふさわしいのかと首を傾げます。日本の感染症危機管理庁についても、どの程度期待して良いのでしょうか。

1995年のCMを思い浮かびます

 「庁」が増え続ける政府の組織改革をみていて、1995年に流行したウイスキーの広告を思い出しました。「何も足さない、何も引かない」。原酒の良さを引き出すウイスキーの素晴らしさを表現するキャッチコピーです。最近の省庁改編をみていると、時代遅れのアナクロニズムといわれようが役所の権限を手放さず、デジタルで改革するといいながら仕事の手法は既得権を傷めず、従来通りにアナログを踏襲し、手放さないとしか見えません。

 中央省庁の再編への道筋をつけた橋本龍太郎首相が通産相時代に行政改革に対する強い思いを目の前で聞いたことがあります。ある新聞社の橋本番記者の質問に対し語気強く言い切りました。「できるかどうかだって。やると言ったらやるんだ」。番記者です。橋本氏とほぼ毎日接ししているにもかかわらず、その本気度に記者が驚いていたのを覚えています。今回の「庁」の増殖はどうでしょうか。改革の本気度を問いたいです。

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