ゼンショーが「ゼッテリア」 飢餓撲滅を掲げ、収益に徹する外食モデル、ブラック批判も恐れず

 新聞記者を職にしたおかげで、外食企業の個性派経営者に数多くお会いする貴重な経験を得ました。大胆すぎて理解不能な経営モデルも目撃したつもりです。結構、物分かりの良い記者だと思っていましたが、ゼンショーだけはどう理解して良いのか迷います。

50年間のブランド「ロッテリア」の進化?

 例えば「ゼッテリア」。ゼンショーが4月に買収したロッテリアは新しいハンバーガー店として「ゼッテリア」1号店を東京都港区に開店しました。メディアによると、ロッテリアの「進化版」と位置付け、「絶品チーズバーガー」を受け継いだハンバーガーシリーズ、途上国から買い入れる「フェアトレード」の豆を使ったコーヒーなどを販売します。店名は絶品バーガーの「ゼ」と、ロッテリアの由来となった「カフェテリア」を組み合わせたもので、ゼンショーの「ゼ」ではないと説明していますが、多くの人はゼンショーの「ゼ」と勘違するはずです。ゼンショーが経営再建をイチから始めるロッテリアの話題作りと受け止めるのが読み筋なのでしょう。

 ロッテリアは1972年創業の50年間も続いたブランドです。親会社のロッテの社名が組み込まれており、ゼンショーとしてもロッテとは縁もゆかりもないということを対外的に明示したい思惑も込められているはずです。50年間築き上げたブランドとロッテリア・ファンをバッサリ切り捨てる潔さとパンチ力にゼンショーの経営の真髄を見た思いです。

ゼンショーは全勝だけ?

 ゼンショーは1982年、創業者の小川賢太郎さんが「全勝、善商、禅商」の三つの意味を込めて命名したそうです。ホームページを見ると、「世界から飢餓と貧困を撲滅する」を企業理念に掲げ、「世界中の人々に安全でおいしい食を手軽な価格で提供する」を謳います。創業は持ち帰り弁当ですが、吉野家で仕事をした経験から牛丼の「すき家」を始め、その後は積極的な買収で事業を拡大しています。傘下に収めたブランドは「ビッグボーイ」「ビクトリアステーション」「ココス」「ジョリーパスタ」などダイエーなど大手スーパーや外食企業がチェーン展開した店名が並んでいます。現役の記者時代に取材した外食企業が多く、懐かしい気分と共にゼンショーの下で生き残っていることに驚きます。

 創業者の小川賢太郎さんは経営手腕には唸るしかありません。経営に行き詰まった外食企業をどんどん飲み込みながらも、外食業界でトップクラスの収益力をあげています。吉野家で習得した「早い、うまい、安い」だけでなく、お客さんの好みを調べ上げて新たな売れ筋をメニュー化するノウハウに長けているようです。

すき家の過酷な労働実態は社会問題に

 これだけ切れる経営者なのに、社会問題にも発展したすき家の「ワンオペ勤務」をなぜ引き起こしたのか理解できません。24時間営業するすき家では深夜も1人で店舗を切り盛りする「ワンオペ勤務」を敷いていましたが、過酷な労働実態が広く批判され、女性店員が死亡しているのに気づかないという事態も起こっています。2012年以降を見ても、労働基準監督局から多くの是正勧告を受けており、すき家の労働実態を調べた第三者委員会の報告によると月500時間以上働く社員、2週間帰宅できない社員がいました。

 経営戦略は社名の由来のうち「全勝」だけが前面に出て、ブラック企業の汚名を恐れない収益の徹底を追求したと思われても仕方がありません。誰が見ても「世界から飢餓と貧困を撲滅する」よりもまずは「社員の過酷な労働実態を解消する」が優先すべきと考えます。

 直近のビッグモーターの例を見れば分かる通り、ブラック企業を徹底すれば儲かるのです。誰もやらないことをやれば利益が出るのですが、それでは従業員と一緒に事業を経営する意味はありません。東大中退で全共闘を経験したと言われる創業者ならご存知なはずです。「資本論」を著したマルクスは搾取と呼んでいます。

 ゼンショーは2014年から店舗の労働環境改善を経営の最重要課題に位置付け、第三者委員会と職場環境改善促進委員会を設けて外部の意見をもとに経営改革に取り組んでいるそうです。この10年近い期間で、ゼンショーが掲げる理想と現実の乖離をどこまで解消したのでしょうか。しかし、50年も看板として掲げたロッテリアをいとも簡単に「ゼッテリア」に変えてしまうゼンショーです。経営理念にブレはありません。

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