あの日野自動車が不正を!しかもいすゞの後塵を拝するなんて 野武士が公家に敗れる理由とは
いすゞのセラミックエンジンに魅了される
損得抜きで最先端技術に挑むいすゞが好きでした。とりわけセラミックエンジンの開発は思い出深いです。高熱への耐久性、しかも熱効率が高いセラミックを素材にしたディーゼルエンジンは環境対応エンジンの理想形ともいわれ、いすゞは世界でもトップを走っていました。個人的にハマってしまい、セラミックを素材にしたディーゼンルエンジンの開発は夢もあって、たびたび取材して記事にしました。あれから30年以上も過ぎましたが、まだ実用化の域に達していないのが残念です。
そんないすゞが高収益会社なわけがありませんでした。東京・南大井に新本社を建設した際、「自動車がだめになっても、不動産会社として生き残れる」という自虐的なギャグが社員で流行ったほどです。
だからこそ次に驚いたのがこれです。「いすゞが日野を上回る業績を上げているなんて!」。この10年間の業績を比較すると、いすゞが日野を上回る高収益企業に変身していました。日野の不正データ事件で久しぶりにトラック業界の経営を調べるまで知りませんでした。野武士が公家に負けるなんて・・・。日野の総合力を考えたら、自ら孤高を好むかのような独自路線を走るいすゞに敗れるわけがないと思い込んでいました。
トヨタとの距離感が日野といすゞの分岐点
分かれ道はどこだったのでしょうか。贔屓目だと自覚していますが、やはり日野がトヨタの完全子会社に入り、いすゞが独自路線を選び続けたことが分岐点だったと思えます。日野は2001年にトヨタが株式の過半を握り、完全子会社になりました。トヨタの奥田碩社長が邁進したトヨタグループ拡大の大波に飲まれた形です。以後、トヨタから社長が4代に渡って送り込まれます。蛇川忠暉氏のようにトヨタ社長になっても不思議ではない実力経営者を冠する時もありましたが、トヨタの豊田章男社長によるグループ求心力の強化の余波で野武士と呼ばれた日野自動車の面影は消えてしまいました。まるで今のダイハツを見る思いです。
今回のデータ不正事件の起因はさまざまあり、今後詳細な報告がなされるのでしょうが、三菱やスバルなど多くのデータ不正事件を知る経験からいって開発現場が勝手にデータ捏造に走ることはないということです。かならず上司の指示があってデータの改竄は始まります。2017年に久しぶりに日野自動車生え抜きの社長が誕生したからといって、トップの一言で全てが決まるトヨタの社風に染まった日野自動車の社内がすぐに変わるわけがありません。
ここでも対照的なのがいすゞです。GMと提携解消した後、経営不安説を一掃する狙いも込めて2006年にトヨタと資本提携しましたが、思うような提携効果が現れず18年に提携解消しました。それから3年後の2021年に再びトヨタと資本提携します。日野自動車と違い、いすゞとトヨタの距離感は付かず離れず。1度目の提携の教訓を忘れず2度目の提携は経産省の後押しもあって電気自動車など次世代の開発に向けた自動車産業全体の取り組みとして手を結んだ格好です。日野を凌ぐ好業績はいすゞらしいともいえる身の丈のあった経営がもたらした結果です。
公家と称されると、どうしても世間知らずといわれているような気がします。いすゞの今は、日本の自動車業界の空気をあまり読まずに経営戦略を進めてきた結果かもしれません。今後もトヨタとの距離感を保てるのかどうか。スバルが今、それを試されています。トヨタ一色に染まってきた日本の自動車産業のなかで、クルマが好きで好きでたまらないといった空気がいすゞにまだ残っていればうれしいです。