三菱自 主戦場の東南アジア、EVで再び攻めるのか、それともEVから守るのか

 世界で初めて電気自動車(EV)の量産化に成功した「i-MiEV(アイ・ミーブ)」は、三菱自動車にとって最後の革新的な開発モデルだったと考えています。経営破綻するかどうかの瀬戸際の時に開発されたクルマです。電気モーターを使った駆動系、シャーシー、デザインすべてをゼロから設計し、部品の耐久性などを試験。卵をそのままデザインした近未来を先取りしたボディーは、次代を宿したコクーン(繭)と重なりました。

アイ・ミーブは最後の革新モデル

 コクーンから誕生したEVが活躍する舞台は東南アジア。そう信じています。長くなりますが、アイ・ミーブが教える三菱自の強さと弱さを説明します。

 東南アジアは三菱自が絶対に死守しなければいけない市場です。なにしろ人口7億人近い東南アジア市場で日本車のシェアは8割。海外の他市場に比べて頭抜けて高い。日本車メーカーは早くから現地生産し、販売網も現地の財閥グループと手を組んで広げた結果、日本車以外の自動車メーカーを寄せ付けませんでした。

 三菱自にとっても販売台数、営業利益でそれぞれ3割も占めています。「スリーダイヤモンド」の輝きは日本では想像できないほどタイなどで輝いています。経営破綻寸前の三菱がなんとか存続に向けて活路を拓けたのも、東南アジアでの高い人気が支えたからです。

東南アジアは中韓のEV攻勢に

 その東南アジアが中国や韓国のEVメーカーの攻勢にあっています。例えばタイでは、2023年上半期のEV販売台数は前年同期実績の3倍も増え、新車販売の6%を超えました。バンコクやジャカルタを訪れた経験があれば、深刻な大気汚染に悩まされる政府や市民がEVを後押しするのもうなずけるはずです。中国同様、東南アジア各国でも公的助成金の追い風を受けてEVの販売が今後も増えるのは確実です。

 EVは時期尚早という声もあります。EVの価格が高額なうえ、普及のカギを握る充電設備が不十分だからです。東南アジアは安価で使い勝手が良いエンジン車がまだ販売の主役として続く見通しで、中国や韓国のメーカーに対抗してEVを本格投入することにためらう日本車メーカーがほとんどです。

 中国の自動車市場を見てください。政府のEV推進政策もあってエンジン車を主力とする日本車の販売は惨敗です。各社とも販売は大きく減らしており、三菱自は中国の現地生産撤退に追い込まれています。中国の市場は政府が外国車を締め出す狙いもあってEV販売を後押ししているため、極端な例かもしれません。ただ、世界最大の自動車市場である中国で日本車メーカーが脱落する意味はとても大きいものです。

絶対に死守しなければいけない市場

 まして日本車メーカーが支配する東南アジアで中国や韓国の自動車メーカーに奪われるわけにはいきません。とりわけ三菱自は世界戦略車「ミラージュ」をタイで生産し、世界に輸出しており、東南アジア市場のシェア争いは会社の命運がかかっています。中国のように現地生産から撤退する選択肢は鼻からありません。

 最近は小型SUVを投入するなど中韓のEVへの対抗策を打ち出しています。しかし、エンジン車でEVの伸びを止めることはできません。EVの購買動機は価格や使い勝手よりも、地球環境という理念で決まるクルマです。EV対エンジン車の激しいシェア争奪戦は利益を失う消耗戦に発展するのは間違いありませんしEVのシェア拡大を先延ばしするだけです。

ガソリン車は落穂拾いのように

 東南アジアの現況を考えたらEVが急速に普及するわけではありません。ただ、これからのクルマ社会はEVの普及を前提に進化していきます。今、日本車がEVシフトを躊躇したら、東南アジアのクルマ社会・市場の再設計から脱落することになります。たとえ新車市場が拡大したとしても、日本車は落穂拾いのようにエンジン車を売るハメに陥り、まるでオセロゲームで白と黒がガラリと転換するような衝撃を受けるでしょう。

 世界初の量産EVであるアイ・ミーブを開発した勇気とプライドを思い起こしましょう。経営破綻寸前の四面楚歌のなかでなぜ開発できたのか。現状にあぐらをかかず、近未来が必要とするクルマを創ろう。アイ・ミーブは高い理想を掲げ、事業化には失敗しましたが、この教訓を活かして東南アジア市場にふさわしいEV市場を創造する。アイ・ミーブからの伝言です。

 実は三菱自は東南アジアですでに実践しているじゃありませんか。クルマははるか高嶺の花、道路は走り回る自転車で埋め尽くされていた頃からクルマを現地生産し、販売しています。それが小型車ミラージュで花開き、スリーダイヤモンド・ブランドは東南アジアで大きく輝き始めたのです。その輝きは長年の信頼から生み出され、今も多くのユーザーから支えられています。

ミラージュに代わってEVがタイで生産

 三菱自はちょっと商売が下手。経営も苦手。だからこそ、アイ・ミーブは、蛮勇と言われようが勇気と自信を持てと説いています。きっと10年後、ミラージュに代わってアイ・ミーブのDNAを継いだEVがタイで現地生産され、世界各国へ輸出される風景を目にすることができるはずです。

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