日産・ルノーが教えること⑦プロ経営者の功罪 今を生きるのか、永続性を求めるのか
カルロス・ゴーン。1999年6月にルノー副社長から日産COOに着任して経営再建計画「日産リバイバルプラン」を作成して経営の実権を握ります。以来、2018年11月に金融商品取引法違反で逮捕されるまでの20年近く日産を支配していました。
経営の実権を握る過程がヒント
頭角を表したのはフランスのタイヤメーカー、ミシュラン。生まれ故郷であるブラジルに戻り、赤字が続いていたミシュランの南アメリカ事業を再建し、次は北米の最高経営責任者(CEO)へ昇格。その経営手腕を買われてルノー副社長にスカウト。日産との資本提携を機に日産へ。
その強烈なキャラクターはテレビや新聞などメディアでいつも登場していたので、ご存知の方がほとんどでしょう。コストカッターの異名がある通り、熟知する工場現場のみならず無駄を徹底的に排する経営手法は財務・経理でも発揮され、短期間でV字回復を果たします。
日本の社長は「御神輿に載る」という例えがあるように経営トップとして部下をうまく使い回す技量と器量も評価されますが、カルロス・ゴーンの場合は厳しい環境から出世の階段を駆け上がってきただけに、 自ら常に前面に立たたなければ納得できなかったのでしょう。でも、それは日本の企業経営を革新しました。
高額報酬は当たり前、でも・・・
日産追放の際に話題に上った100億円を上回る高額報酬も、本人にしてみれば欧米の大企業に比べれば当たり前の水準であり、疑問の余地などありえないと考えていたはずです。日産・ルノーは世界でも最大級の自動車グループにのし上がったうえ、その経営手腕に対する高い評価から欧米の自動車メーカーへの転身も噂されたほどですから、
しかし、自分を脇で支える日本人の日産生え抜きの報酬は抑えめでした。長年、日産のCOOとしてナンバー2を務めてきた志賀俊之氏の報酬はゴーンに比べると、はるかに少ない金額でした。余計なことですが、日本人の経営者としてみれば高額はでしたが・・・。
ゴーンは「プロの経営者」ブームを
カルロス・ゴーンの経営再建劇は、あまりにもヒットしたため、「プロの経営者」という言葉が流行しました。経営コンサルタントの世界でいえば、「ターンアラウンド・マネジャー」と言い換えられるでしょうか。まさに経営破綻を180度回転させ、再建させる手腕を持つ経営者のことです。
経営破綻寸前の企業は、プロの経営者に任せて再生する。2000年代に入って流行します。確かにカルロス・ゴーンを支えた志賀さんがゴーンと同じ剛腕を発揮できるかといえば、率直に言って疑問です。志賀さんは人当たりもよく、温厚な雰囲気を常に失いません。剛腕のゴーンの下でこそ生きるキャラクターでした。
弊害もある。後任を育てない
だからこそ、プロの経営者の弊害も見逃せません。ゴーン追放劇のあとに日産社長に就任した西川廣人氏は自らも追放されるまで社内の求心力を得ることができませんでした。日産の生え抜きとして出世の階段を昇ってきましたが、晩年のゴーン政権で副社長まで上り詰めた人物です。いろいろなバイアスが掛かって辿り着いたわけですから、社内の、特に日産生え抜きの視線は厳しかったと聞いています。
現在の内田社長は日商岩井出身。懐かしい商社名です。2003年に自ら日産へ転職したそうですが、そこは日産です。純粋培養ではありません。日産生え抜きが期待していた対抗馬の関潤さんは日本電産へ。社長に就任しましたが、創業者の永守重信氏に切られました。
ようやくプロ経営者の功罪を考える段落になりました。どこの会社にも再建する優秀な経験と識見を持った人材はいます。日産とカルロス・ゴーンの関係はまさにその典型例です。しかし、企業は10年、20年生き延びるのが役割ではありません。もし企業が100年後も存続することを考えたら、プロの経営者がよいのか、それとも生え抜きが良いのか。「生え抜き」から育てられない組織が果たして健全なのか?
ただ、言えるのは企業には生き残る長年のDNAが存在します。ホント、言いたくありませんが、そのDNAにこだわるのも組織です。あえていえば、ゴーン以降に生え抜きで卓越した経営者を輩出できない日産にその不安を覚えます。
ユニクロ、サントリー、その後の教訓は・・・
ユニクロは失敗しましたがサントリーはじめ「プロの経営者」が活躍しています。一定の期間は機能するのでしょうが、企業の永続性を考えたら短期的な評価だけで済まないはずです。企業が組織として継承することって、結構難しいのです。
プロの経営者に求めるのは何かと改めて考えてしまいます。企業はいつまで生きるべきものなのでしょうか。もし、永続性を求めるなら、プロの経営者で良いのか、それとも生え抜きで育てるべきなのか。
会社は誰のものか。このテーマに対する回答はないのかもしれませんが、従業員の生活はみんな会社次第。経営者に頑張ってもらわなければいけません。