NISSANが日産に帰る日 ゴーン追放のクーデターは成功に終わるか

 同じ風景を何度、眺めたのだろうか。こんな不可思議な思いが蘇ります。

 苦境から抜け出せない会社をなんとか救い出すため、煮湯を飲む思いで海外の競合相手と資本提携してひと息つく。うまく手懐けると踏んでいたら知らない間に実権を握られてしまい、ニッチもサッチもいかない。

苦境を乗り越えたら、実権は奪われていた

 経営が軌道に乗り始めたこともあって、今度は資本提携先と手を切る工作を練り始める。自らの会社の将来戦略、従業員、グループ企業、取引企業はどこかへ置き去り、提携廃棄に向けてエネルギーを消耗、自身の未来も霞んでしまっていることに気づかない。

 今、目の前に映っている風景は日産自動車とルノー。日産はルノーとの資本比率の見直し協議を進めています。両社の出資比率は日産はルノーに対し15%、ルノーは日産に対し43%となっています。ルノーが計画する電気自動車の会社に出資する代わりに、日産への出資比率を43%から15%へ引き下げるよう求めているようです。

 もともとは両社対等の精神で提携交渉したはずでした。ところが経営破綻寸前だった日産がフランス政府に救済される形になり、主導権はフランス側に。当時の日産社長は頭脳明晰な人物でしたが、すでに経営する意欲を失っていたことも拍車をかけました。

1999年 ルノー傘下に

 1999年3月、ルノーは6400億円強を投じて日産と日産ディーゼル工業の株式を取得します。日産への出資比率は36・8%。経営の主導権を完全に握ります。ルノーのシュバイツァー会長は一見、紳士的でしたが、仏政府との交渉も含めて百戦錬磨の経営者です。日産の経営改革にルノー副社長だったカルロス・ゴーン氏をCEO(経営最高責任者)として送り込み、「リバイバルプラン」をたちまちのうちに作成して次々と実行に移します。

 「まるで魔法を見ているようだった」。ある日産幹部のため息です。2兆円あまりの債務を抱えていた日産は、まさにV字回復。「なんで利益がこんなに出るんだろう」と日産社内ですら驚く経営指標が並びます。カルロス・ゴーン氏は日産の経営改革のみならず沈滞する日本企業を立て直すヒーローとしてもて囃されました。

ゴーン氏=日産

 しかし、日産社内にはふつふつとガスがたまり始めます。「こんな経営は日産ではない」。日産系列の部品メーカーと縁を切り、鉄鋼メーカーなどとも取引慣行を捨て去り、価格重視で決定します。新車開発などの投資は大幅に縮小され、新車戦略も大きく変わります。日本の自動車産業をリードしてきたという誇りはもうズタズタです。コストカッターの異名を持つゴーン氏ならではの剛腕でしたが、「このままなら丸ごと乗っ取られる」との危機感が日産の生え抜き幹部に共有されるようになります。

 当然、日産を退社する人材が増えます。「こんな優秀な人材を採用できるとは思わなかった」と中堅企業の社長から何度も聞きました。ある経営コンサルタント会社は「日産が中堅中小、あるいはベンチャー企業への人材供給基地になっています」と少し苦笑しながら、教えてくれました。

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