スバル・ソルテラ試乗(1) BMWかトヨタ EVが問う選択 次代のブランドをどう創る

 スバルの電気自動車(EV)「ソルテラ」を試乗しました。率直な感想は良かったです。期待以上です。

 富士重工業時代から長年、スバルを取材してきました。スバルの魅力は水平対向エンジンと4WDがあってこそ。エンジンの代わりにモーターと電池を搭載して走るソルテラが新しいスバルの魅力をどう体現するのか。質感がいわゆるスバル 車と異質に感じられたら・・・。ブランド力を維持できるかどうか疑問がありました。

次代のスバルを切り拓く可能性を予感

 結論は次代のスバルを切り拓く可能性がある予感を得ました。しかし、目の前には高いハードルが控えています。スバルが直面する道のりはこれまで以上に厳しいかもしれないと感じたのも事実です。

  スタイルは写真などの印象より良かったですね。ボディーカラーの赤が気に入りました。スバルのラインナップでみれば車格はきっと最上級車になるはずです。最近の電気自動車特有の直線的なカットが強調されており、アウトバックと比べて大きく感じません。存在感は「フォレスター」みたい。それにしても電気自動車はなんでフロントフェイスは細めで同じような面構えなんでしょう。メーカーを問わず同じような印象です。個性的な顔ってセンチな思入れなのでしょうか。

 運転席に座ってみました。フロントガラスの眺めが広い。エンジンを搭載していないので、フロントノーズが低くて短いからでしょう。目の前に見えるインストルメントパネルはとても簡素。見た目は任天堂のスイッチのよう。表示情報は速度など最小限に絞り込んでいるようです。ハンドルを握る左手方面のセンターコンソールの位置に大きなパネルがあります。スマートフォンの画面と同じ風景が見えます。車とスマホがネットで一体化する最近流行のスタイルですね。

走りも良いけど、ハンドルを一番気に入りました

 ハンドルが素晴らしい。実はソルテラで一番気に入りました。アウトバックなどに比べて小ぶりで、握った感触が好きです。ハンドル操作にタイヤが右に左に動く様が握った感触から伝わってきます。試乗車は最初、ハンドル操作でどのくらい動くのか不安ですが、すぐに馴染みました。ほんと、良かった。ハンドル周辺にはパドルシフトの操作ボタンなどが配置されていましたが、これには驚きはないです。

 オートマチックのシフト操作はダイヤル式でした。初体験です。中央のボタンを押して右に回るとD(ドライブ)に入ります。左はR(後退)。マニュアル時代はギアチェンジのシフト操作が車の面白み、乗りこなす醍醐味でした。電気自動車のシフトって「こうなんだ」とそのまま受け止めるしかありません。こんなところで自動車の変遷を感じます。

 ブレーキペダルを踏んでボタンを押すと、モーターが稼働。発進です。エンジンと違うので正確な表現はわかりませんが、トルクに力があります。アクセルを押した分だけ前に進み出る力が出てきます。走りは路面に吸い付いている感じです。もちろん、低速で発進しているのですが、路面を捉えている感触がしっかりあるので、ハンドルから伝わるタイヤの動きも合わせて車がどんな構えで走っているのかがわかる印象です。試乗車は最初、おっかなビックリで走り慣れるのにちょっと時間がかかりますが、ソルテラの試乗は走り始めて100メートルぐらいで、「思い通りに操作できる」と確信できました。「ハンドルが良いからじゃないの」。心の叫びが聞こえます。

 街中の試乗です。交通規則を遵守しながら走りますので、乗り心地の感想はあまりありません。やはり高速道で走ってみたかったです。ソルテラは4WDにXモードという雪道や荒地に発揮する機能を備えています。水平対向エンジンの4DWとどう違うのか同じなのかも体感したかったのですが、それは街中では到底無理。バッテリーが車底に配置されているので、水平対向エンジンの搭載車よりも重心が低いそうです。安定感はアウトバックより強く、右折や左折の際にクルマの軸を感じます。

 ソルテラはどんな車に例えられるのだろうか。短時間の試乗でしたが、思いついたのはBMWでした。かなり硬質な走りを感じますが、確実に路面を捉えている安心感も同時に覚えます。これまでのスバル 車には無い感触です。

 スバルの走りは国内外で高い評価を得ています。4WDの特性と水平対向エンジンによる重心の低さが雪道や荒地でも安定した操縦性能を発揮すると信頼されています。これはスバルの宣伝しているわけではなく、毎年足繁く通うスキー場や実家の東北へ帰る時にスバル 車と他社の差を感じます。他の4WD車がヨタヨタする山道や降雪時でもスバルならまだ走れる。大雪や大雨の荒天時、この差は天国と疑獄の違いです。

 ただ、このスバルの強さが欧州高級車には通用しません。走りは確かに良いが、走行性能、デザイン、車内のシートや装備などは欧州車には敵わない。値段も違いますからね。仕方がないです。

スバルは分岐点に立っている

 ソルテラはスバルが分岐点に立っていることを教えてくれます。まず電気自動車の開発で先行するトヨタ自動車との共同開発です。資本提携先でもあり、部品や生産も共同です。詳細は次回に譲りますが、同じ車を生産しながらも、走りはスバルが4WD、トヨタが2WD、サスペンションもスバルが硬質、トヨタは街乗り用に柔らかめに設定しています。価格はスバル 車で最高価格になるはずです。上級車は700万円近い。自治体の電気自動車の補助を使って少し割安になりますが、スバルにとってはあまり慣れていない富裕層も取り込む努力が必要です。

 最も重要なのは次のスバルのアイデンティーをどう再構築するのか。ソルテラの重要部品はトヨタにかなり頼っています。電気自動車の車種を増やしていくことを考えれば、このままトヨタと同じ色に染まっていきます。それともトヨタでは体感できない車の面白さ、スペシャリティをどう新たに創造し追求していくのか。独自性を守ることができなければ、ダイハツ工業と同じ道を走ることになります。

 かつて富士重の生え抜き幹部が資本提携する日産自動車の宿痾から逃れるため、新たな資本先を模索する際、日本のBMWをめざすと話していたのを改めて思い出します。あれから20年以上過ぎて、スバルの未来は再びBMWと重なってきます。BMWは今、高級乗用車からSUVへシフトしています。

 もしあの時スバルと提携すれば、世界でもかなり存在感を示せる電気自動車メーカーが誕生していたはずです。でも、BMWはスバルとの提携を断りました。自らのアイデンティーに自信を持っていたからです。スバルが今もBMWを標榜するなら、自らの個性に磨きをかけることができるか。あるいはトヨタの傘下で生き延びるだけか。

 次回にもっと考えてみます。

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