スバル・ソルテラ(2) 米合弁の教訓 ”失敗”を飛躍へ再びハンドルを切れるか

 スバルは2022年5月、群馬県に電気自動車専用の工場を建設すると発表しました。国内の新工場は60年ぶりです。水平対向エンジンの個性を重視していたこともあって電気自動車の開発、生産で出遅れてます。自動車メーカーとして脱炭素の対応が急務だけに、資本提携先のトヨタ自動車と組んで電気自動車ソルテラを共同開発して布石は打ちました。しかし、主要な技術や部品はトヨタに頼り、ソルテラの生産もトヨタの工場です。スバルの新工場が稼働するのは2027年以降。この5年間で事業構造とアイデンティティを再構築できるか。スバル存続が試されています。

2027年に電気自動車の専用工場

 スバルは2030年までに世界販売の40%を電気自動車、ハイブリッド車に置き換える計画だそうです。現在は5%程度だそうですから、かなり急速な車種転換が予想されます。といっても電気自動車、ハイブリッド車ともにトヨタの技術と部品に依存しているわけですから、2030年時点でもトヨタに依存する構図が変わるとは思えません。

 今回発表したが新工場についても電気自動車専用と銘打っていますが、並行して既存の工場を改編するようですから、実際は老朽化した設備を更新する一方、各工場との生産ラインを再配置する計画と考えて良いのではないでしょうか。今後5年間に投入する車種のラインナップを織り込んで工場ごとにエンジン搭載車、電気自動車、ハイブリッド車と仕分けるわけですから、トヨタから受託生産する車種は増えるのではないかと推察します。

 すでに2012年に発売したスポーツカーのスバル「BRZ」と姉妹車トヨタ「86」は両社で共同開発し、スバルの工場で生産しています。2022年5月発売したばかりのソルテラも、サスペンションなど走行性能で違う味付けを施してトヨタの姉妹車「bZ4X」としてリース販売されています。日本の自動車生産の伸びが期待できない現状を踏まえれば、これからトヨタが国内工場の再編を実施するのは確実ですから、スバルが共同開発のパートナーとしてだけでなく生産の委託先としての役割の重みは増すとみて間違いないでしょう。

 スバルはトヨタの資本提携を受け入れているとはいえ、今後生き残るために欠かせないスバル・ブランドをどう守るかの正念場を迎えることになります。なにしろ2030年までに掲げた世界販売計画で電気自動車やハイブリッド車が全体の40%を占めるという意味は、自らのアイデンティティである水平対向エンジンが大幅に縮小することです。2027年以降に新工場が稼働すれば、トヨタブランドも生産する自動車メーカーとしての位置付けが一段と強まります。ダイハツ工業を見てください。軽自動車を除けば、トヨタの完全子会社として個性をほぼ失われています。電気自動車の生産が拡大していけば、スバルはこのままトヨタに飲み込まれてしまうのでしょうか。

1986年のいすゞとの米国合弁が教訓に

 スバルの近未来を占う教訓があります。1986年に決定した米国工場の建設です。日本の自動車各社は1980年代、激化する日米自動車貿易摩擦や急速な円高に対応するため、米国での生産を拡充していました。当時の富士重工業は米国での販売比率が高いものの、単独で米国生産するだけの経営余力がなく、窮地に立っていました。そこで米国生産で出遅れていたトラックメーカーのいすゞ自動車と合弁の形式で米国工場の建設を決断したのです。

 まさに窮余の一策です。現地生産のリスクを抑えるため、一つの工場で乗用車と小型トラックを生産するという自動車産業の常識では考えられない方式を編み出します。自動車生産はロボットによる溶接や塗装など自動化が進んでいるものの、車体の板金などの金型工程は乗用車と小型トラックで大幅な交換が必要です。生産効率が良いわけがありません。しかし、米国生産しなければ、米国市場を失うとの危機感が富士重といすゞの背中を押しました。

 合弁の結果は誰もが予想した通りに推移します。いすゞの小型トラックなどの販売が振るわず、工場経営は悪化。一方、スバルは荒地などでの高い操縦安定性が評価され、販売は尻上がり。結局、2003年に富士重はいすゞとの合弁を解消して単独で米国工場を経営することを決めます。現在は米国市場で利益の大半を稼ぐスバルの強さを生む源泉になっています。

 塞翁が馬といって良いのか、結果オーライといって良いのか。断言できるのは、世界戦略を持ち合わせていなかった富士重が米国市場で生きるしかないと腹を括ったのが、今のスバルにつながったことです。

エンジンを捨て4WDなど走行性能で高級感を創造できるか

 今と似ています。米国進出同様、出遅れて電気自動車にアクセルを踏み出したスバル。米国市場で最も得意としていたエンジンや4WDなどで成功を収めましたが、今回はエンジンを捨てて4WDなどの走行性能で勝負するしかありません。電気自動車の技術や部品はトヨタ以外からも集積して新たに経験も含めて積み上げていく必要があります。

 幸いにも電気自動車は走行性能を高めるため、4WDタイプが高級車として定着しそうです。欧米メーカーと比較しても4WDなど走行性能は負けていません。表現は美しくありませんがトヨタのふんどしを借りて、どこまで世界の電気自動車の土俵で勝負できるのか。ようやく俵に足をかけたところです。ソルテラの加速のように路面に吸い付く足の送りを期待しています。勝ち残って欲しいです。

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