ダイソン

残念な会社パナソニック 家電はなぜダイソンに負けたのか 過信が革新を吸い取る

 英国ダイソンの掃除機を使い続けています。2001年に購入してから、もう20年を超えました。まだ使えます。使用時の騒音が半端ないですが、ゴミを吸引する能力も半端ないです。魅了され続けています。きっかけは単身赴任。広島で一人暮らしすることになり、家財道具を簡単にそろえます。料理は学生の頃、節約に迫られてやっていましたから手慣れたものですが、掃除がどうしてもめんどくさい。自宅と同じ掃除機を持ってもしかたがない。ということで、テレビCMでよく見かけるようになったダイソンを選んでみました。

ゴミの吸引能力に快感を覚える

 結果は爽快。予想外の感覚です。ダイソン日本進出は1998年だそうですから、当時まだ3年ぐらいしか過ぎていません。価格は高い。騒音はすごいし、掃除機は大きくて重い。日本製品に比べて扱いにくい。購入した家電量販店でも「小回りが効かないので、狭い日本の家屋には合わない」といわれました。

 ゴミを吸入する爽快感はお金を払った以上を味わえます。掃除が楽しくて部屋で暇になったら「ダイソンするか」。とりわけ畳の目に沿って吸入する時の快感にはハマりました。い草がきれいに織られた畳の目からゴミが吸い出されるのを見ながら、「白物家電に技術革新はもうない」と言っていたパナソニックの役員の言葉を思い出しました。

 日本の家電メーカーはダイソンの登場を侮っていました。繰り返しになりますが価格は高いし、騒音は大きく重い。サイクロン方式という新しい吸引機能はすごいのですが、ゴミの取り出しは透明なタンクを脱着します。ゴミがタンクのこびりついたりちょっと手間です。日本メーカーの掃除機は小ぶりで軽く静かな吸引音。ゴミは紙パックに収納され、交換は簡単。価格はダイソンが鼻から競えません。日本の家電各社は「サイクロンの騒音がうるさく、小回りも悪い。選ぶ消費者はいるが、新し物好きの少数派」と冷めていました。直近の例で言えば、「アイロボット」の登場当時と同じ反応です。

 1990年代、白物家電は日本の独壇場でした。海外メーカーとの競争といっても自動車と違い、アジアメーカーとの競争は価格だけ。でも「安いけど、すぐに壊れる」が常識でした。家電の機能は日本が断然上回ると自負していました。1980年代、ドイツの自動車メーカーが日本車メーカーを見た目と同じです。

 最大の落とし穴は白物家電はもう革新しないと確信していたことでした。日本の消費者は製品表面の傷などにもうるさく、ちょっとした気遣いに工夫した性能に飛びつくと考え、白物家電そのものの技術革新にエネルギーを注ぎ込んでいませんでした。

 パナソニックはテレビ、半導体、パソコンなど映像系デジタル分野に巨大な設備投資を注ぎ、開発に注力します。白物家電は日本のきめ細かな要望に応える機能を加える形で進化します。昭和、平成の時代に世界を制した日本の家電はその成功体験の延長線上に立ち続けていました。

 「白物家電は日常生活の必需品。技術革新よりも使い勝手」。この固定概念に縛られる日本の家電メーカーの姿が見えます。生活に欠かせない製品に求められるのは使いやすさと価格。技術革新で使い勝手が大きく変われば、消費者は離れてしまう。着実な進化は怠れないが、大きな変化を求めない保守的なユーザー層と並走するのが家電の開発方針でした。

 ところがダイソンは日本の消費者が欲していると思われた需要とかけ離れた市場を切り拓きます。これまでの常識を打ち破る技術を使った機能で掃除をする楽しさを創造したのです。「掃除はめんどうだから、手軽に済ませる家電が一番」。そう思い込んでいた消費者は「掃除は楽しい」と気づきます。ダイソンが掃除機で見せつけた市場のブレイクスルーは日本の家電メーカーがすっかり忘れていた、あるいは優先順位を後に置き去りにしていまいした。

 パナソニック、東芝、日立製作所など日本の家電各社はサイロン方式を追加しますが、当初は傍目には恐る恐るのようでした。ダイソンは一時的なブームと見ていたフシがありました。結局は全力で追随します。白物家電にも技術革新が必要でしたと苦虫を噛み潰した思いで決断したはずです。

アイロボットも常識を打ち破る

 米アイロボットの「ルンバ」でも再現されます。2002年に登場したロボット掃除機も当初は機能よりも面白い仕掛けが施されたギミックのように扱われます。販売会社は通信販売、玩具メーカーなどが扱い、アイロボットが日本法人を設立したのは2017年です。

 家電は世界一と自負した日本の白物家電。そのトップを切るパナソニックから今も世界を凌駕する白物家電は登場していません。白物家電が経営の柱の一つですが、経営危機に陥った三洋電機を救済する形で買収した白物家電事業がその土台を支えています。新機能を加えるきめ細かな新製品開発は続いています。

日本の家電は革新する勇気を失ったのか

 白物家電はもう成長が見込めない成熟した市場なのでしょうか。ダイソンやアイロボットは新たに市場創造できることを証明しています。日本の家電各社は過去の過信から自信そのものを失い、革新する勇気を忘れさせてしまったかのようです。

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