アフリカ土産物語 (35) ブルキナファソの首都ワガドゥグ 一期一会の歌姫 あこがれはマイケル

ホテルで歌姫の声が

 2003年2月24日夜、ブルキナファソの首都ワガドゥグ。投宿先のホテルで廊下から女性の澄んだ歌声が聞こえてきた。声の主は髪の毛を大きなボリュームに膨らませた美人で、2日前にアフリカ最大の映画祭「FESPACO(フェスパコ)」の開会式に出演したゴスペルグループ「MAKOMA(マコマ)」の歌姫ナタリー・マコナさんと分かった。その後、彼女はソロとして独立し、自身が夢に描いた「ビッグスター」となった。

首都ワガドゥグの街角

 

フェスパコ

 「私たち、ファンになって4年です」という地元の少女3人がホテル廊下のソファでギターをつま弾くナタリーさんをうっとりと見つめていた。「今日が私の21歳の誕生日なの」と微笑んだ歌姫は、コンゴ民主共和国出身の兄3人、姉2人らと家族で組んだ「MAKOMA」の活動について説明してくれた。

あこがれはマイケル・ジャクソン

 「私は生後3カ月でオランダに一家で移住しました。もっと大きなスターになるのが私の夢。あこがれはマイケル・ジャクソンです」。そう話すと、透明感のある歌声で自作曲を披露した。夢見心地で聴いていた少女たちだったが、夜が更けるとナタリーさんは「さあ、そろそろ帰りなさい。あなたたちはまだ赤ちゃんだから」と笑顔で促した。

 MAKOMAは福音をポップ、R&B、ダンスを交えて表現するゴスペルグループで、2000年にファースト・アルバムを出した。世界中でコンサートを開き、最優秀アフリカン・ミュージック・ゴスペル・グループ賞を受賞したのも、リードボーカルを務める末娘の歌唱力、ルックスが大きな魅力だった。

フェスパコの開会式で舞台に立つMAKOMAのナタリー・マコナさん

 スタジアムで行われたフェスパコの開会式で私は彼らのステージに目を見張った。大きな張りぼての人形や民族衣装、仮面で着飾った人々のパレードに続き、黒ずくめの宇宙服のような衣装で現れたマコマはリズム感抜群のダンスと歌唱力で3万の観衆を沸かせたのだ。それだけに、ナタリーさんの飾り気のない素顔が意外に思え、好感を抱いた。マネージャーにもらったDVDはうれしい土産となった。

マコマのDVDを手にするマネジャー

 翌2004年にナタリーさんはソロ活動に専念する。人気テレビ番組で圧倒的なパフォーマンスを見せて視聴者を釘付けにする様子がYou tubeで見られる。アイク&ティナ・ターナーの「Proud Mary」、ビージーズの「Stayin’ Alive」を堂々と歌いこなし、大手レコード会社と契約を結んで精力的なツアーを始めたのだ。

アイク&ティナ・ターナーの「Proud Mary」 https://www.youtube.com/watch?v=g4FEXG1POhQ

ビージーズの「Stayin’ Alive」https://www.youtube.com/watch?v=eHoHdlOS3dg

 30代後半に体重117キロという肥満体になり、69キロまで戻したという信じられない逸話まであるが、高い身体能力と豊かな音楽的才能をいかんなく発揮したようだ。

祖国のカリスマとデュエットも

 そんな彼女にとって、祖国のカリスマミュージシャンのパパ・ウェンバのラスト・アルバムにデュエット曲「Six Millions Ya Ba Soucis」が収められたのは忘れえぬ思い出になったことだろう。パパ・ウェンバは2016年4月24日、コートジボワールで公演中にステージ上で倒れ、そのまま逝ってしまったのだ。このデュオでナタリーさんは軽やかな美声を披露している。

 ブルキナファソは2020年のマリに続き、22年1月にクーデターで軍事政権を誕生させ、今年2023年7月下旬にそっくりの展開で軍政を生んだニジェールと3国で連携、「親ロ」ドミノの新たな地域紛争勃発すら懸念されている。現地語で「高潔な人たちの国」を意味する「ブルキナファソ」の幸せな夜は遠い世界の幻になってしまうのだろうか。(城島徹)

パパ・ウェンバとのデュエット曲「Six Millions Ya Ba Soucis」 https://www.youtube.com/watch?v=9vIpVT67NTY

 

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