65歳から始めたメディアサイト💅「伝える」と「伝わる」の違い マスにはない爆発力も

 「ジャーナリズムは稼げるか」(ジェフ・ジャービス著、東洋経済新報社)の読書感想文を続けます。

「ジャーナリストは伝えるの仕事と信じてきた」

 本書を読むとジャーナリストに対する理解に首を傾げることを感じます。著者のディービスさんは、以下のように捉えています。

ジャーナリストは長らく、市民に情報を伝えるのが自分たちの仕事だと信じてきた。知らせるのが仕事ということだ。そして、市民が何を知るべきかを決めるのは、編集者(エディター)と呼ばれる人たちの役割だった。規約を決めるんは情報を提供する側だった。何を知っていれば「十分に情報を得た市民」と言えるかも、提供側が決めていた。

 米国の新聞・テレビは仕事柄、今でも利用しています。取材現場を共にしたこともあります。ただ読者・視聴者が日々どう感じ、反応しているかまでは熟知してはいません。日本国内でもジャーナリズム、ジャーナリストに対する認識はさまざまありますから、以上の理解が広く定着しているのかは正直、疑問です。

価値判断は取材先や読者とのやり取りから

 以上を前提に個人の意見を述べれば、ジャーナリストから一方的に読者に情報を伝えることが当たり前と考えている人はどれほどいるでしょうか。新聞記者時代を振り返っても、自分自身の取材を軸に正しいと考える素材をもとに記事を執筆します。そのニュースバリューは、記者個人だけでなく担当編集者、新聞社の編集局などと意見を交わして最終的に決まります。新聞の場合、深夜までに何度も新しいニュースが飛び込んできますから、夕方段階でニュースの扱いを新聞一面のトップ記事と決めても翌朝の紙面では一面から中面へ移っているのことなど日常茶飯事。

 読者の立場とされる人たちとも取材に限らず、いろいろな場面で経済・社会の話題を話し、関心の度合いを測っています。卑近な例でいえば、居酒屋で飲んでいても隣や後ろの席に座るお客さんの会話はすべて聞いています。どんな話題をどういう思いで考え、見つめているのか。街を歩くこと、空気を吸うこと、すべてが読者とのやりとりだと考えて過ごしていました。

「読者は私より知っている」

 本書ではこんな下りもあります。

 アメリカのジャーナリスト、ダン・ギルモアは「私の読者は私よりも多くのことを知っている」と発言した。これはよく引用される発言で、誤って引用されることが多い。ただ、彼の言うことは本当だろう。それを認めるべきだ。だとすれば、ジャーナリストの仕事は、ただ一般の人に何を知らせることではない。

 そんな偉そうことを言った覚えはない。確かに30歳代の時、新聞記者としてガンガン飛び回っていた時、新聞紙面が足りなくて、もっと書きたいと不遜にも思っていた時期がありました。しかし、当時から戒めの言葉として「新聞記者、知らぬは本人ばかりなり」とよく言われたものです。実際、ある大手企業の合併話が発表された時、担当記者は泣いていました。「後から聞けば、東証市場などでは当たり前のように伝わっていた情報。知らないのはあんただけだった」と言われたそうです。

「伝えたい」と考えても「伝わらない」ことも

 新聞から立場が変わり、小サイトを制作して発信しているともっと体で感じます。新聞やテレビと違って読まれているかどうかはわかならないほど影響力がありません。しかし、地味だけに読んでもらえないだろう思った原稿が読まれることがあります。逆に、これは読んでほしいと考え、力を込めて書いても見事に読者からスルーされることもあります。「伝えたい」と考えても、伝わらない。伝わればラッキーと思って書いた原稿が予想以上に「伝わる」結果に。

 「伝える」と「伝わる」はマスメディアもミニサイトも変わりません。もちろん、発行部数やテレビのように伝播力があるメディアは「伝える」力があります。しかし、それは直ちに「伝わる」とはなりません。受け手がどう理解し、行動するのか。

 著者のジャービスさんはメディアはサービス業に転身するべきだし、コミュニティに寄与できる情報を増やした方がよいと助言します。具体的な例を多用してサービス業、コミュニティとの関わり合いを示唆しますが、メディアが伝える内容をどう咀嚼し、価値判断するのは読者・視聴者です。まずはジャーナリスト自身がしっかりと取材し、確信を持ってコンテンツを創り上げることを最優先しなければ、読者は相手にしてくれません。媚びた情報はすぐにバレます。本書でも記事に似せた広告「ネイティブ広告」の存在を酷評しています。

「伝わる」はネットを介して「伝わる」へ

 マスメディアの「マス」の概念がネットによって消え去った今、「伝わる」ことはツイッターなどSNSを介して驚くほど伝えられ、伝わっていきます。この小さなサイトを日々、更新しながら、「へえ」という感動を楽しんでいる理由です。

 この「伝える」思いをどれだけ「伝わる」かに同期させるか。サイトを通じて満喫したい醍醐味です。

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