エヤデマ大統領のポートレート

アフリカ土産物語(2) トーゴ 呪術と独裁 そして、負けない家族愛

ギニア湾に面した西アフリカにトーゴという小国がある。訪ねたのは、今は亡きエヤデマ大統領という典型的な独裁者が支配していた2004年1月のことだ。まるでギャングのように不敵な風貌のエヤデマは1967年にクーデターで政権を奪って大統領に就任して以来、政府に逆らう者は警察を動かして処刑するなど圧政の限りを尽くしていた。

エヤデマ大統領時代の圧政下の空気を吸う

南アフリカに赴任していた私は、トーゴから身の危険を感じて脱出した若き亡命者S君から家族宛の手紙を預かっていた。首都ロメ郊外で訪ねた彼の実家は地鶏が庭を走り回り、藁を乗せた小屋でつつましい生活がうかがえた。

突如現れたアジア人を戸惑いと不審な目で見ていた家族だったが、S君の手紙に同封されていた彼の写真を見るや安堵と親しみの眼差しへと変わり、やがてドブロクのような地酒がふるまわれた。心に染みるもてなしがうれしかった。

ぐっときたのが、写真を通して9年ぶりに息子に〝再会〟した母親の悲しげな表情だ。異国で苦学する息子の写真をなでながら「無事でいるのかい?」と声を掛ける姿を見て、「南アフリカに戻ったら、お母さんの写真を息子さんに見せてあげますよ」と約束した。

呪術を施された小屋には奇妙な人形が並んでいた

呪物崇拝のブードゥー教が息づいている

この国にはブードゥー教という呪物崇拝の民間信仰が息づいていた。霊を鎮めるために動物などが生贄(いけにえ)として捧げられ、呪いの道具としても用いるようで、街はずれの露店で売られている商品を見てギョッとした。なんと、サルや犬の顔やワニの頭部など気味の悪いミイラ、牛や馬の尻尾などが無造作に並んでいたのだ。

呪術のためのグッズを売る店には動物のミイラも

店裏の小屋に案内された私は試しに旅の安否を占ってもらった。小指ほどの人形を手渡され、「伝統的医学療法士」まがいの店主が〝施術〟らしき仕草で占った結果、「大丈夫だ」と太鼓判を押したが、さすがにミイラを土産にするわけにいかず、そそくさと退散した。

そんな信仰が社会に浸透しているせいか、独裁者エヤデマにも呪術めいた逸話が残っていた。この独裁者は1974年1月24日、自身が搭乗する専用機が墜落し、乗員の多くが死亡するなか軽傷で生還した。その際、「私以外は全員死んだ」と偽り、「私だけが神秘的な力で奇跡的に生き残った」と宣伝するパレードを翌日やってのけたという。

超高級ホテル、私が唯一の客。無人のロビーが目の前に

さらに、その日を「経済自由化の日」と宣言し、旧宗主国フランスに対抗するため数日後の2月2日にリン鉱石採掘会社を国有化。数年後に大統領肝いりの超高級ホテルが完成すると、その象徴的な日付をホテル名にした。

2月2日ホテルのパンフレット

好奇心から私はその「2月2日ホテル」に投宿した。パンフレットには368の客室のうち大統領用と大臣用のスイートルームが各52室とある。「最も安い部屋を」とフロントで値切ったとこまではよかったが、不気味なことに私が唯一の客だった。「呪われたホテルなのか」「どうやって運営を?」。不思議な気持ちで、豪華な無人のロビーを見渡したのだった。(城島徹)

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時にはモノなき土産話もあります。

今世紀初頭の3年間、アフリカを特派員として飛び回った筆者が各地の土産にまつわる「こぼれ話」を綴ります。とはいえ紛争絡みの取材など、土産とは無縁の出張が多く、「モノなき土産話」も含まれますのでご容赦ください。(元新聞記者・城島徹)

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