草間弥生さんがいっぱいの図

阿佐ヶ谷の屋台 栃木屋 (その3)警官、落語家、スリのみなさん 絶好調の舞台

登場人物は警官、落語家、スリのみなさん

ある夜、警官、落語家、スリのみなさんが次々と目の前で期待通り?の役割を演じる名人芸を拝見する経験がありました。まず警官。30歳代ぐらいの警察官が傍目にも気持ち良く酔っ払っていました。警察証らしきものを見せてくれたので警察官でしょう、きっと。その彼は次第に酔いが回り、屋台の周囲を歩く人に向かって話しかけ、無視されると「逮捕する」を連呼します。屋台に座っているとはいえ、阿佐ヶ谷駅前での連呼です。皆さん大人ですから笑って通り過ごします。警察官と教師は日頃のストレスが溜まると聞いていましたが「逮捕する」って言葉、テレビドラマよりも結構軽く使えるんだと目からウロコが落ちました。

入れ歯を借金の担保に

落語家さん。酔った振りをしながら落語ネタを作る辛さと悲しさを肌身に感じました。自ら高座名(亭名)を春風亭なんとか名乗っていましたし、慣れた着物姿を見ると本物の落語家さんだったと思います。屋台のお客さんと和やかに会話した後にお会計となった時、懐に手を入れて金がないと言うのです。その仕草と口調が素人の私にも「気づいたフリ」と気づきました。「親父、払えないよ。う〜ん、どうしよう。そうだ、借金の担保にこの入れ歯を置いていく」と言い、指を口に差し入れて入れ歯を取り出します。金歯じゃないので、どう見ても換金しても価値が無さそう。屋台の親父もそんなもの預かるだけ邪魔という顔をする。「そう言わずに入れ歯を置いていく。俺が真打になったら、話のタネになるだろう」。屋台の空気は夜の寒さよりも冷え込みます。失礼ながら年齢の割にはまだ二つ目かという周囲の同情的な空気のなか、かなり強引にネタを作る努力が悲しく映りました。

女性のスリさん、「私の客よ」の一喝に一同沈黙

最後はスリ、というか文字通り裸一貫で商売している女性とベロベロに酔った男性の二人です。二人だけのかなり密着した楽しい時間を過ごした後、屋台に寄ったそうでお酒も楽しく飲んでいました。男性はもうほとんど意識が混濁状態。ある瞬間、女性は男性の上着に手を入れて財布を取り出しました。他の客が見ているにもかかわらず、全く平気な顔で財布からお金を取り出して自分の財布に入れ直します。その手順はとても事務的。手慣れたものです。当然、屋台のみんなは目が点に。女性は一喝!。「私の客よ、あんたらは黙ってて」。男性にはもう帰ろうと声をかけて起こし「お会計にして」と続けます。男性は財布を取り出して払おうとするのですが、当然お金はありません。「あれお札が無い。おかしいなあ」。女性は「何をしているのよ、なぜ無いのよ」と男性の体を揺さぶります。視線はわれわれに向かって「一言も声を出すんじゃ無いよ」。目力で押し潰されそうでした。誰もなにも発しません。屋台の親父も知らんぷり。結局、男性が後日お金を持ってくることで二人は腕を組んで帰りました。20歳ごろの私は「プロってすげぇ」と驚くだけ。あの男性、服を着たまま帰れるのかなあ、とつまらない心配までしてしまいました。人生色々。男も女も一生懸命やらなきゃ生けていけねえんだあ〜と思い知った夜でした。

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