生命を実感、北海道・釧網本線、花咲線は自然のテーマパーク
鹿も鶴も、もちろん人も。みんな生きている。
そう実感させてくれたのが北海道の北東部を走るJRの釧網本線と花咲線。釧網本線は網走と東釧路の166キロを、花咲線は釧路と根室の135キロをそれぞれ結びます。前々日に宿泊した名寄市を早朝出発して、旭川から北見を経由して網走までの234キロを走る石北本線でお昼過ぎに到着。網走で流氷を見る予定でしたが、流氷はまだ沖合に。
網走から釧路、根室へ
翌日、釧網本線と花咲線に乗って釧路、根室へ。昨年は名寄市から路線バスを乗り継いで紋別に到着。翌日も路線バスを繋いで雄武、浜頓別、音威子府と回りました。昨年は悪天候でJRの運休が続いたので、今年も心配でしたが、悪天候による運休が心配でしたが、網走からほぼ時刻表通りに運行しました。助かりました。
列車は釧網本線も花咲線もゆっくり走ります。冬季はオホーツク沿岸に流氷が押し寄せるので、釧路に向かって走っていると左側は寒々としたオホーツク海、右側には雪で覆われた原野が広がります。夏季は美しい原生花園となって目を楽しませてくれますが、真っ白に染まった原野が太陽光を浴びてキラキラ輝くのも素晴らしい。観光客にとってはパノラマ列車に乗っている気分です。
運転席の真後ろはパノラマ席?
もっとも、走行速度がゆっくりなのも理由があります。いつも冗談を交えて多くのことを教えてくれるJR北海道の経営幹部が真顔になって明かしてくれました。大正・昭和にかけて行われた釧網本線の敷設工事は困難を極め、建設工事に従事した網走刑務所の囚人らがバタバタと亡くなったそうです。その劣悪な労働・生活は、今でも使われる「タコ部屋」の語源となりました。
「線路を支える枕木を敷く基礎工事が難航して、何人もの囚人が亡くなった。その過酷さは枕木の数だけ人間が亡くなったといわれたほど」と教えてくれました。ゆっくり走らざるを得ない理由についても「スピードを高めるために新たに基礎工事をすると、莫大な投資がかかる。それに見合う収益が見込めないから、速度を抑えざるを得ない」と明かします。確かに石北本線、釧網本線は、特急に乗ってもさほどスピードを感じません。
鹿に「ピーピー」と警告を鳴らすが
そのせいか、乗った列車も通過待ちも加わり、のんびり。列車はエンジンを原動力に走る気動車。運転手さん1人のワンマン運行です。走り出したと思ったら、間も無く「ピーピー」と警笛が鳴り始めます。最初はちょっと間延びしていましたが、時には「ピッピッ」と激しく連呼。車窓から外を見ると、線路沿いにエゾシカの姿が。雪原の上には足跡が長い筋を描いています。線路沿いの森や林の中にもエゾシカの姿が見えます。警笛が激しくなり続け、今度もうまくかわしたかなと思っていたら急停車。接触事故です。
北海道はエゾシカの繁殖が増えすぎて森林などの被害が増えています。JRにとっても列車との接触事故が発生し、たびたび運行に支障をきたします。人身事故ならぬ鹿身事故。かわいそう。
乗客は朝の時間帯なので通勤・通学の人も多いですが、観光客も多く、エゾシカをみるたびに歓声が上がります。シートに座っていられず、運転席の真後ろに立って運転手さんと一緒にエゾシカを目で追いかける人も。シートに座っている乗客の中でも「ほら、早く逃げて、ぶつかるよ」と大きな声をあげるお母さんも。
1度だけなら、しょうがないかなと思うのですが、根室まで合計4度の接触事故。運転手さんは慣れているとはいえ、たいへんな気苦労でしょう。ワンマン運転と思っていたら、鹿の事故処理などで担当者も乗り込んだり、安全運転を守るために大変な労力を費やしているのがわかりました。
通過待ちの時間で足湯?
通過待ちなどで停車時間が長い駅があります。その一つが川湯温泉駅。川湯の温泉は人気温泉地ですが、駅舎には足湯の小屋が併設されています。以前、訪れた時は、獣臭が凄かった。きっと秋冬は足湯の暖かさに誘われて、周辺の動物が建屋に入り込んでいるようでした。今回は出入り口がしっかりしていたので、動物が人間の代わりに足湯していることはなかったようです。
気動車が釧路湿原に入ります。「鶴が居たあ〜」という声が車内で響きます。鶴居村に近づいたようです。絶滅寸前の丹頂に餌を与え、生息地として有名な村です。過去、何度も訪れて丹頂を遠くから眺めた経験がありましたが、車窓から見ることができるのは驚きです。丹頂も慣れているんですね。
釧路湿原の玄関の塘路駅を通過しました。夏季でしたが、釧路湿原を流れる釧路川でカヌーを楽しんだ思い出があります。大自然に包まれるとは、こういう体感なんだなあと改めて感動したものです。トロッコ列車にも乗り、もう遊園地気分でした。冬季は蒸気機関車が走っています。
網走から釧路まで3時間以上もかかります。3時間もかからない東京ー新大阪の新幹線に耐えられないのですが、エゾシカ、鶴、そして大自然を肌で感じる楽しさを満喫し、釧路駅に到着した時は大満足でした。