北海道・ふるさとを創る3 浜頓別、長年の努力と経験で築かれた自信と余裕
でも冷静に考えると、当地に立って周囲を見渡したら納得しました。浜頓別は人が集まる魅力とノウハウが蓄積されていたのです。カニやほたてなどオホーツク海の豊かな水産物、乳製品など農産物が目の前の漁港や牧場・農場から届けられます。そのおいしさを説明する必要もないでしょう。自然も北海道の醍醐味を満喫できます。
夏は雄大な自然がすべてを受け入れてくれます。真っ直ぐに伸びて高低差がないオホーツクの海岸線を生かして100キロマラソンも開催します。冬はラムサール条約の保護地区でもあるクッチャロ湖で白鳥、オオワシ、数えきれない鴨が迎えてくれます。
そこに、若者や観光客を迎い入れ、楽しませる経験が半世紀を超える歴史で蓄積されています。街を歩いたら、観光客向けの心憎いサービスを見つけました。居酒屋の所在を教える地図の看板ですが、「今夜はこんな居酒屋が開いているよ」とそれぞれのお店の楽しみ方が紹介されています。
特に驚くほど派手なPR方法ではありません。しかし、観光客がどんな情報やサービスを浜頓別に求めているのかをきっちり把握して、さりげなく提供している余裕には敬服します。浜頓別のふるさと創造力は当時から継続した努力と財産の成果そのものです。それが「また来よう」と思わせる余韻を人の心に刻み込みます。結果として長年の努力と経験から考案した巧みなマーケティングが生まれたのです。
派手なキャッチフレーズはなくても「何気ない魅力」が「また来よう」に
浜頓別町は1950年代の8000人超をピークに現在は3500人にまで減少しています。それは日本全国の地方が直面している現実です。しかし、コロナ禍をきっかけにすさまじい東京の求心力は衰えています。移住とまでいかなくても「1週間はこの地で暮らしたい」と思える魅力が「新しいふるさと創造」の源泉だと思えてきました。
浜頓別は東川町と違ってキャッチフレーズが少ないのは事実です。でも、何気ないことにほっとする感動力では負けていないはずです。シベリアから毎冬、白鳥がクッチャロ湖へ戻って冬篭りする気持ちが分かった気がします。安心した時間を過ごせるって素晴らしいことなんです。