京都・伏見がFUSHIMIへ 日本酒を最強コンテンツに街づくり
「日本人の入館者が訪れると、ホッとしますよ」。月桂冠大倉記念館の案内担当の男性が苦笑します。年齢は同世代。日本酒のおいしさについて雑談している時でした。
灘、西条と並ぶ酒処のブランド力を発散
京都・伏見ーー兵庫・灘、広島・西条と並ぶ3大酒処と呼ばれ、街のあちこちに日本酒の蔵屋敷が並びます。全国ブランドとして知られる月桂冠は創業が1637年(寛永14年)で、伏見で最も古い酒蔵。その歴史を紹介する記念館には観光客が途切れなく訪れますが、過半は外国観光客。インバウンドの観光客から高い人気を集める京都とはいえ、観光の目玉が日本酒になるとは・・・。かなり意外な事実でした。
外国観光客が増えている理由を月桂冠の案内担当にお訊きしたら、「日本酒の輸出はまださほど多くありませんが、海外の寿司ブームが反映して日本酒への関心が高まっているのです」と明快に教えてくれました。館内の利き酒コーナーでも外国人が並び、入館料に含まれる試飲用コインを持って吟醸、大吟醸、辛口、甘口などの違いをスタッフに質問して味見しています。私たちが欧米やオーストラリアなどを旅行した際、ワイナリーを訪れるのと全く同じ感覚なのでしょう。
外国人観光客も「日本酒目当て」?
外国人の好みは辛口のようです。どうも人気銘柄は山口県の旭酒造が製造する「獺祭」のようで、とりわけ精米歩合23%というコメの7割以上も削り取る純米大吟醸が海外で高い評価を集めているためか、月桂冠の日本酒の説明の中でも外国人観光客に対しては「獺祭ほど精米歩合を高めていませんが、それでも美味しいお酒ができています」と「獺祭」の名前がたびたび登場します。これからは海外向けブランド力強化が必須なのだと痛感した次第です。
日本酒の造り方も変わっていくのでしょう。純米大好きな私は、「酒蔵に住みつく酵母がどうお酒を作るのかがおもしろい」と知ったかぶりをしますが、月桂冠も旭酒造も、杜氏の経験と腕前に頼る酒造りから、成分な数値を基に工程管理する手法へ移行しているメーカーです。今後、海外への日本酒輸出を考えると、輸出先の好みに合わせた酒造りがますます増えるはずです。杜氏の名人芸で誕生する銘酒よりも、高品質で大量に生産できる工場方式を選ぶ日本酒が生き残るのかもしれません。そんな予感をしました。
せっかくの機会なので、月桂冠のスタッフに「なぜ伏見が酒処になったか」を質問しました。「灘は男水、伏見は女水といわれ、水質が違うんです。創業以来、使用している井戸の水を飲んでみてください」と中庭にある井戸を指差します。「さかみづ」と書かれた紙が貼り付けられた井戸からは水が絶え間なく流れており、試飲するととても柔らかくてうまい。思わず何杯も飲んでしまいました。
街づくりは「日本酒」一本で
月桂冠大倉記念館を出て、街を歩き回ると、もう至るところに「日本酒」。伏見の街づくりの幹には日本酒が一升、いや一本貫いています。商店街を歩くと、伏見の蔵元が書かれた化粧樽がショーウインドーを飾り、アーケードの天井からは蔵元の場所を紹介するマップがぶら下がっています。商店街を抜けると、「カッパ」をキーワードにする黄桜酒造がど〜んと現れ、街角を曲がれば地元の有力蔵元と出会う感じです。
街並みも京都の日本酒をイメージさせるように路地や店構えに工夫されています。ちょっとした路地に入ると赤い鳥居が隙間なく建ち並び、抜けるとお洒落な居酒屋やお店が待っています。
外国人観光客にも人気だったのが伏見酒蔵小路。北海道・帯広で誕生した「屋台村」のイメージを京都バージョーンに仕立てた店舗構成でした。ワンフロアに8店舗が入り、どこのお店に座っても8店舗の料理を注文できます。日本酒は伏見の酒蔵18銘柄を揃え、好みに合わせて飲むことができます。
居酒屋も外国人を想定
カウンター席に座って飲んでいると、両脇は外国人観光客。店のスタッフに相談しながら、選んでいます。出てくる器がおしゃれ。漆器風の生地で仕上げ、専門的な知識が無くてもお酒と料理を楽しみながら「日本、京都」を満喫できるよう雰囲気を醸し出しています。京都はやはり外国人観光客の好みを知っています。ひたすら「巧みだなあ」と感嘆するばかりでした。
個人的にお薦めは、おでん「べんがら」。人気店で知られ、予約必須なのですが開店前から並んでちょっとだけお邪魔できました。お酒もおでんもうまいのは当然ですが、おでんの調理にも遊び心があります。でも、味はしっかり。他のお店とは違う味付けを記憶させます。開店と同時に入った隣のお客さんに「入れて幸運だったねえ」と言われましたが、お酒とおでんを味わった後は「口福」でした。