65歳から始めたメディアサイト 商標登録(下)特許庁の「諦めず」の励ましを力にゴール

区分選びと出願料を天秤

 商標登録を可能にする骨格を理解するレベルにまでたどり着きましたが、具体的な詰めが予想以上にたいへん。表示する文字やデザインの独自性は当然、問われますが、すでに同じ商標があっても用途が違えば認められるケースもあります。自分自身がどんな用途で使うかも絞り込まなければいけません。「漠然と取りたい」は通用しないのです。

 用途を説明する言葉を区分と表します。もし、商標登録を幅広い分野で使うとなれば、多くの区分を取得するしかないのですが、出願料は区分ごとに支払う形式です。区分が増えれば増えた分、特許庁に支払う出願料金がかさみます。

 企業やお金に余裕がある個人なら、どんどん区分を増やすことが可能ですが、私の場合、仮に取得できたからといって収入が増える見込みはありません。どの区分が自身のサイトに適切なのか。サイト制作に挑む過程で勉強を兼ねて挑戦したわけですから、必要最低限、つまり区分は一つで良いでしょう。想定する用途区分はサイトのタイトル、コンテンツなどを網羅すること。区分は第41区分。この一点に絞りこむところまでたどり着きました。

*は文字か記号か

 表記もEco*Tenにしました。ところが出願サイトに登録する項目に記入すると、オンライン上で即、ハネられます。*が文字に相当しないようです。確認のため、特許庁の問い合わせ先にメールをしました。そうすると、数日後に「商標審査基準室」から以下のメールが届きます。
まず「お世話になっております。ご質問ありがとうございます」の書き始めを読んで、なぜかホッとしました。

【質問】
商標登録の記号の扱いについて教えてください。アルファベットの商標を考案しました。特許庁の検索で同一アルファベットの並びを使用した商標を見つけました。私としてはアルファベットの並びに*を加えて登録できないかと考えています。念のため、同じアルファベットの並びに*を加えてチェックすると、特許庁の検索では「記号は対象外です」の趣旨ではねられました。記号は使用できないのでしょうか。ご教示ください。

【質問の回答】
商標には、文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたものなどのタイプがあります。
ご質問にある「*」は記号に該当しますので、〇〇が考案されました「同じアルファベットの並びに*を加えた」商標を特許庁に出願することはできます。(ただし、「*」を含む商標を標準文字商標として出願することは不可。標準文字一覧については、以下を参照)

 「*」を文字ではないが、記号として表記できればなんとかなりそう。文字表記を諦め、イラストなどのデザイン画に切り替えれば良いという考えもあるようでしたが、ネット上でデザイン画を作成する技術は持ち合わせていません。無理を覚悟で打ち込むと、オンライン上の確認では出願項目に表記として残っています。きっとクリアした証。なんとかなるのではないかと開き直ることにしました。

 ここまでの作業が順調かどうかを一度、確認しようと思い立ち、最初はとても相談する気も湧かなかった電話の相談窓口を利用することにしました。特許庁のサイトで掲載されている案内に申し込み、日程を確定しました。

電話相談で好感触

 当日はそれなりに緊張しました。相手は専門家。素朴な質問をせせら笑われるのではないか。不安は消えません。予想に反して、担当者はとてもフレンドリー。出願初心者の不安を承知しているせいか、「いやあ、よくできています」と優しい言葉をかけてくれます。文字か記号についても、オンライン登録の表記が画面や印刷でちゃんと表記できていれば大丈夫と話してくれます。試しに見せてくださいといわれたので、スマホを介してEco*Tenを見せたら、「良いんじゃないですか」と素直に反応してくれました。「なんかいけそう」との感触を得ました。

拒絶通知、でも「諦めずに」の一言

 年明けて2023年2月に特許庁からA4版の封筒が届きます。ひょっとしたらと期待して封筒を開けたら、「商標の拒絶理由通知書」でした。覚悟していたとはいえ、「やはりだめだったか」と当然、がっかりしました。理由を「商標法第15条の2に基づきその理由を通知します」となり、その理由は法律用語で説明されています。「指定役務」など専門用語で詳しく説明されているのですが、イメージが湧かず気分はどん底のまま。

 届いた封筒には何枚も印刷物が同封されていましたので、せっかくだからと目を通します。特許庁らしく相変わらず紙一枚にびっしりと詰め込んだ文章が書き連ねており、読む気も起こりませんが、意外な文章を見つけました。「【重要】商標の拒絶理由通知書を受け取った方へ」と大きく印字された見出しの下に次のような文章があります。

       商標登録出願した多くの方が受け取る書類です。

      諦めずに、拒絶理由通知書に記載された応答期間内に対応しましょう。

 がっくりした時に「諦めずに」の字句には救われます。目の前がパッと明るくなりました。「拒絶理由を解消できれば、登録することができます。お助けサイトの解説を見て検討しましょう」とありますが、一からやり直しはもう無理といった厭戦気分に陥っていただけに「多くの方が受け取る書類」「諦めずに」の言葉は地獄で仏とはこのことか。

 しかも、同封書類をよく読むと「ただし、(中略)以下の補正案のように補正したときは、この拒絶理由は解消します」を発見しました。補正案はなにげない格好で表記されていました。専門用語を書き連ねているので、一連の理解不能な文章とスルーしていましたが、きっとこの補正案をコピペして再提出すれば良いのかも。こんな淡い希望が湧きます。同時に、心の中は「発見した、発見した」が連呼されています。

 この通りコピペしてよいのか。かなり迷いましたが、結局自分自身ができることは補正案のコピペしかありません。同封された見本を例に補正案を作成しますが、案の定、特許庁のサイト上の書式に合わなければハネられます。何度も何度もハネられて、補正案をようやく完成。オンライン上で提出しました。

登録査定の意味に戸惑う

 それから1ヶ月後、特許庁から何も届きません。不安になってオンライン上の状況を確認すると、偶然にもその日に登録査定されている事実を発見しました。とにかく喜びました。また前進です。

 ところが、今度は登録査定という言葉に悩みます。通常、査定は、これから審査するとの意味と理解して、認めるかどうかを判定すると受け取ります。登録査定の意味はこれから登録の査定を終えるまで待つのか。それとも査定したとの過去形なのか。

 さすがに終盤局面とわかっていましたので、特許庁の相談窓口へ再び電話。「登録査定は登録査定ですよ」となんか禅問答の会話が続き、「なにか文書が届くのですか」と確認すると、「ちょっと待ってください、文書送るんだっけ」と誰かに確認します。「届くはずですよ」と心許ない返事には「ちょっとあなた特許庁の人間ですよね」とツッコミを入れたくなりました。

 もう待っていてもしょうがないので、特許庁を訪れて査定が終えていれば登録料を受け取るはずです。久しぶりに霞ヶ関を訪れ、商船三井ビルの向かい側にある特許庁を訪れます。玄関のセキュリティゲートの許可証を得る際、「登録料を支払いに」と訪問理由を話した時はちょっとうれしかったです。

 登録料を支払う窓口の前ではちょっとドキドキ。担当者に「きっと大丈夫と思いますが」と訊ねたら、確認作業をしてくれて「5年にしますか、10年にしますか」と話してくれたので、登録できたのだと確信。「10年にします」と即答したものの、10年後まで生きている自信があるかどうか不安が過ぎりましたが、「商標登録が切れる10年後まで生きて、活用しよう」と気持ちを切り替え、お金を支払います。

登録10年間を選び、自身のやる気も登録

 3万2900円。もちろん、大金です。ただ、この3万2900円の価値をどう活かすかは自分自身の裁量次第。財布から紙幣と硬貨を取り出す時、商標登録は実は自分のやる気を試す作業だったのだと初めて気づきました。

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