アフリカ土産物語(32)マリ・モプティ 刀剣を持った遊牧民トゥアレグが目の前に

 マリ中部のモプティはニジェール川の水運に恵まれた商業都市にして、世界遺産の街への玄関口である。首都バマコから陸路で東に走り、ジェンネを経てたどり着いた。さあ、これから北方の古都トンブクトゥへ向かう。いよいよ目前にサハラ砂漠が迫る。

色彩も臭いもカオスの極み

 モプティに着くや場末のホテルに転がり込んだので、川辺に船が集積する港の光景しか記憶にない。2003年12月17日に南アフリカを出た私は西アフリカのガーナ、ニジェール、リベリア、コートジボワールを駆け足で取材し、28日にマリの首都バマコに到着した時はすでに疲労困憊だったのだ。

様々な物資が集まるモプティの街

 港にはカヌーのような細長い木造船が停泊し、魚、野菜、穀物、衣類、カゴ、木材など陸揚げされた物資に、遊牧民や漁師、商人らが群がっていた。裸足の子どもがいるかと思えば、朱色のエリを広げたトカゲが待ち受ける。色彩も臭いもカオスの極みだった。

「NINJA」が現れる

 北方の地中海沿岸と南方のギニア湾沿岸との交易を古くから担った地で日本伝来の名称に遭遇した。黒い作業服の男性の背中に「NINJA SECURE」の文字があったのだ。会社のユニホームを着た警備員だ。手裏剣などを使って戦国大名を守る黒装束の「ニンジャ(忍者)」にあやかったのだろうか。TV番組「仮面の忍者 赤影」やテレビアニメの「少年忍者風のフジ丸」で忍者がブームになった子どもの頃の記憶がよみがえった。

警備員の制服の背中に「「NINJA」の文字があった。

 そもそもアフリカでは空手やカンフーなどの武術「マーシャルアーツ」への関心が高く、ニンジャもサムライ(侍)と同じ強者のイメージが抱かれ、実際に多くのニンジャが存在する。「ナリウッド」というハリウッドまがいのナイジェリアのビデオ映画にも登場するし、コンゴ共和国では「ニンジャ」を名乗る反政府勢力のカルト的な武装兵が暗躍する。

モプティの港で刀剣をの売る男性

トゥアレグの男は「刀剣を買ってくれ」

 巨大砂漠が近いと実感させられる光景が現れた。藍染のターバンと青い衣装を身にまとったサハラの遊牧民トゥアレグの男がやってきて、刀剣を買ってくれと言う。アラブの血も混じっているのか、エキゾチックな顔立ちの青年の姿もある。

 荒縄で縛った板状の岩塩が目に入った。「あれがサハラの塩か」。砂漠の塩山で採られ、長さ約1メートル、幅約40センチの形に切り出し、ラクダの隊商がサハラ南縁のトンブクトゥまで運び、それを船に移して載せるらしい。

ニジェール川水域の道なき道を行く(モプティからトンブクトゥ)

 そして大晦日の朝、次の目的地トンブクトゥに四輪駆動車が走り出した。水辺と大地の道なき道を進む。時に水しぶきを上げて、浅瀬を突破するかと思えば、悠然としたオアシスのような流れを渡るフェリーに車ごと乗り込む。

フェリーの船上は混沌のエネルギー

 帯刀してにこりともしないトゥアレグの老人、家畜の牛、海外からの観光客、4WDの車体も呉越同舟だ。水量など日々変わる自然条件に合わせて車を走らせる。目の前に迫るのはトンブクトゥの街だ。14世紀にヨーロッパの人たちにロマンを抱かせた「黄金都市伝説」にうたわれたサハラの古都である。(城島徹)

渡し舟に乗り合わせたトゥアレグの男性とウシ(モプティからトンブクトゥ)

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