ニューヨーク 個性的な造形と樹木の空間が増殖 東京にも欲しい「奇妙奇天烈」

 ニューヨークのマンハッタンを歩き回っていたら、街が増殖していると感じました。新しいビルがニョキニョキ建っており、遠目から見れば針のように細くて危うく見えるビルも場所を変えれば分厚い堅牢な建造物に姿が変わります。目に映る風景は万華鏡を覗くように変幻自在。古いビルが多く、倉庫街だった街が個性的なビルや造形物の出現で新鮮な空気が流れている。面白い。これがニューヨークの新陳代謝なのでしょうか。

無個性のビルが立ち並ぶ東京と大違い

 再開発が続く東京もビルが乱立しています。でも外観はほぼ同じで、まるでクローン。マッチ箱を縦に伸ばすか、横に伸ばすか。見た目のデザインに多少の違いはありますが、長方形の塊を街区に嵌め込んでいる印象が拭えません。再開発事業は100億円単位のマネーが投資されます。失敗は許されない。大胆な挑戦よりも手堅さを重視する。これが日本の現状なのでしょう。

古いビルの中に細長いビル

ぶどうの房?蜂の巣?

 変貌するニューヨークでグッとハートを掴まれたのが「Vessel(ベッセル)」。マンハッタン島の西、ハドソンヤードと呼ばれる地域に建設されました。(注;2019年に完成しましたが、自殺者が相次ぎ、2021年から公開が禁止されていました。2024年10月22日から再び公開)。

 奇抜なデザインは都市の新陳代謝の象徴と映りました。一見するとぶどうの房、あるいは蜂の巣に見えますが、16階建てで高さは45メートル。154段の階段と80の踊り場が設けれているそうです。摩天楼のマンハッタンを周遊するハドソン川の観光船からもすぐに発見できる個性的な建物で、新たなアイコンに仕立て上げるつもりなのでしょう。

 建設費は2億ドルだそうです。階段を上り下りするだけの建造物を設けてどのくらいの経済効果があるのか分かりませんが、すぐ横に高級ブランド店が詰まったビルがありますから、人寄せパンダの役割を期待しているのでしょう。建設中にもかかわらず、多くの人が集まり、ベッセルを背景に写真を撮影していました。

ハイラインは樹木と植物がたくさん

緑がもっと欲しい!

 ベッセルからちょっと南に降ると、ハイラインパークと出会います。 1930年代に肉などを運搬する鉄道が走っていた高架線が1980年に廃線となった跡地を公園にしたものだそうです。かつての線路跡およそ2キロ以上を公園にしました。2014年に公園としてオープンしたとありますが、通行止めの箇所もあり、まだ発展途上のようです。歩道には線路が残っているほか、なんとか緑を増やそうと多くの樹木や花が移植されています。元々、樹木がなかった街区だったのでしょう。プラスチック製の造花まで植えてありました。「もっと緑が欲しい」、そんな気持ちが感じられ、楽しくなりました。

 さらに南に下っていくと映画のセットのような古い街区に入り、「オールドニューヨーク」ともいえるビルの風景が現れます。高架上の歩道沿いに階段状の席が設けられ、まるで劇場。劇場の舞台には「ニューヨークの街」が登場します。歩行者は観客となって街の風景が演じるエンターテインメントを満喫する仕掛けのようです。舞台奥に見えるビルの壁にはマザーテレサとガンジーの2人が描かれていました。すぐ目の前にはマグロのような魚が踊っています。なんとも言えないミスマッチですが、「人生いろいろ」と歌って、観客を励ましているのかも。

街を舞台に仕立て、観劇する

 元々、ハイライン・パークは緑が少ない地域を抜けているのでしょう。高架下の街区は1930年代の映画に登場する風景です。夜暗くなったら、「Once Uon a Time in America」のロバート・デ・ニーロ が歩いているかもしれません。個人的にはちょっと勇気が必要かも。

 高架上から見えるマンハッタンの街並みには魅了されます。歴史を感じるビルに摩天楼を代表するエンパイヤーステートビルが交差します。「あそこにキングコングが登ったんだなあ」。勝手に小さい頃に見た映画のシーンを思い出し、喜んでいました。ここも多くの人が写真に収めていました。

味わい深いビルとエンパイヤーステートビル

街区がエンターテイメンの舞台に

 ハイラインの終点(始点?)には「リトルアイランド」がありました。ハドソン川沿いに2021年にオープンした公園です。倉庫街をショッピングモールにリニューアルした「チェルシー」に隣接しています。数多くのチューリップの花を並べたイメージで建設したコンクリートの造形物です。広さは1ヘクタールぐらいあり、多くの樹木や植物、600人以上が観劇できる野外劇場、ゆっくり寛げる広場などが設けられています。なんか「プッチンプリン」の蓋を開けた時のワクワク感が広がっていました。展望台に立つとマンハッタン南にあるワールドトレードセンターなどが見えてきます。

 ニューヨークの再開発は、ブロードウエイ以外の地域でも毎日がショータイムを意識しているのでしょうか。マンハッタンそのものが舞台に上がって演じているのかのようです。新たな建造物は、その演技をより高める脇役。増殖する街が蠢いているのが羨ましいなあ!

リトルアイランド

ワールドトレードセンターが遠くに見える

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