世界の富を産む街を歩く 港町の坂道を辿ると路上はルールもホームレスも違った
港町は坂道が多い。これは鉄則です。私が育った北海道・函館、米国でいえばサンフランシスコ。今回、シアトルの街を歩くと、期待通り坂道が続きます。ホテルから街の中心部ダウンタウンに向かう道は、なだらかな上り下りが続きます。上り坂の頂点で港や湾内が見え、遠くに貨物船の積載物を荷揚げ・荷降ろしをするコンテナヤードが列になっています。「やっぱり港町だなあ〜」と妙にうれしい気分になります。
バスや電車の乗車賃の支払い方で混乱
観光客で賑わうパイク・プレイス・マーケットからちょっと歩くと、モノレールやバス、市電に相当するストリートカーが集まる広場に出会います。旅行先ではいつも公共交通機関を利用します。移動費が割安に抑えられますし、なによりもその街の息遣いを体感できます。バス停や電車のホームに並び、いろんな人とすれ違います。席に座っている人の雰囲気もホント、それぞれ。チケットの買い方、使い方もその街のローカルルールがあっていつも驚かされます。
シアトルの場合、チケット一枚ごとに購入もできますが、東京のSuica(スイカ)のような「オルカカード」があります。名前の由来はシアトルのシンボルであるシャチ(英語でOrca、オルカ)から来ているそうで、地元の人から目の前に広がる湾内に多数のシャチが生息していると聞きました。
先払いか後払いか、それとも払わなくても
オルカカードの機能はスイカと同じでも使い方が違いました。モノレールは改札口、バスは運転席の横に設置された機器にカードを接触させれば良いのですが、ストリートカーは違います。バスと同じと勘違いして乗車時に車内を見回してもカードを接触させる機器が見当たりません。ウロウロしてしていたら、電車の運転室のドアが開き、運転手さんが降りたらホームにあるタッチ盤に触れれば良いと教えてくれました。なるほど!よく見ると、他の乗客は乗車の際に誰もカードを手に持っていません。
降車時、ホームに降りてキョロキョロしてタッチ盤を探すと、細い棒に組み込まれた機器がありました。カードに触れて乗車賃を払い、ホッとしていたら、タッチするのは私だけ。降車した乗客は誰も触れません。妙に思い、ドアを見たら「乗車前に支払ってください」と記載された表示板が張り付いていました。正しい支払い方は乗車前にタッチするのか。
ところが、帰りの乗車時、不思議な出来事が起こります。乗車前に並ぶ乗客は誰もタッチ盤にカードを触れさせません。「あれっ」と思いながらも、「さっきの自分と同じで、降車時に触れるのか」と考えていたら、降車時に触れることなく目的地に向かいます。「これでは無賃乗車になってしまう!」。知らないどこかで支払っている可能性があるので事情は不明ですが、悪意を持てば無料でストリートカーを乗降できるかも。「本当はどこで支払うのか良いのか」。この疑問が脳に刻み込まれます。
カリフォルニア州の住民も混乱していた
そんな疑問を抱えたまま、次の目的に向かうためバス停に立っていたら、ひとりの男性が話しかけてきます。「どこで乗車賃を支払れば良いのか?」。ここの中で「おい、あんたもかよ」と思いながら「私は観光客だから自信がないが、バスは運転席横のタッチ盤にカードを触れれば良いよ」と教えました。私と同じような顔立ちだったので「どこから来たの?」と訊ねたら、「カリフォルニア州だよ」と答えます。「あなたは米国人じゃない!私より街の事情は知っているでしょ」と思わず強い口調で返すと、「シアトルは仕組みがとても複雑。自分が住んでいる街とルールが違い、混乱しているんだ」と苦笑します。
「米国って広いなあ」と笑っていたら、1人の女性が近づいてきました。一見して典型的なホームレスさん。手にはチョコチップ風のお菓子の袋を持って食べながら、バス停で並ぶ人に「食べる?」と尋ねています。「あれを食べたら、一粒5ドルぐらいは払うだろうなあ」と考えていたら、バス停の周囲にはホームレスさんが結構、集まっています。すぐ近くのマクドナルドではテイクアウトの窓口で5人ぐらいが並んでハンバーガーを買っています。
このバス停は街の中心地。東京に例えれば、銀座と有楽町の境目あたり。バス停のピンポイントで見れば、ホームレス、非ホームーレスで比較するとホームレスの人数が上回る印象です。
かつての上野公園のようなテント村が
「シアトルの繁華街でもこんな事情なんだ」と考えながら、バスに乗っていたらそんな驚きが吹き飛ぶ風景が車窓から見えてきました。バスは「インターナショナル・ディストリクト(international district)」と呼ばれる地域を通過中。地域の公園には多くのテントが張られていました。この地域は1900年代から日系移民が住み始め、アジア系の住民が多く、日本の食材を売るスーパー、書店、中国やベトナムの人が経営するレストランが多いそうです。
しかし、公園のテントの住人を見る限り、ホームレスさんです。かつて東京・上野公園には屋台村のようにホームレスのテントや段ボールが立ち並んでいましたが、インターナショナル・ディストリクトの公園は上野公園の風景と変わらないぐらいです。
不思議です。シアトルはマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスら世界の富豪を輩出する街です。その街にかつての上野公園を上回るようなホームレス村がある。なんとも理解できません。簡単に調べると、シアトル市はホームレスの滞在に寛容なようです。それで全米各地から集まってくるとか。
確かにそうかもしれません。絶対にやってはいけませんが、やろうと思えばストリートカーなら無賃乗車できます。マリナーズの野球場ではホームレスの人が集まり、小さな箱を持って歩いていましたが、予想以上にチップを手渡す人がいました。野球場からテント村までは歩いてすぐの距離です。お金が貯まったら、市内中心部のバスや電車の駅そばで仲間と落ち合い、ハンバーガーなどを食べた後、雑談・散策するのも頷けます。
ホテルへの帰り道、ダウンタウンの広場にホットドッグの露店がありました。1個6〜8ドルで日本円にすれば結構高いのですが、多くの人が並んで購入、その後は広場に立ちながら食べ、写真を撮っていました。「かなりおいしいのだろう」と思い、買いました。露店のお兄ちゃんは太いソーセージを焼きながら、炒めたオニオンにちょっとだけ魔法のソースをかけています。サクッと差し出したホットドッグは「これっ、うまい!」と声が出ます。
路上で食べるホットドッグはうまい
シアトルの路上は傍目から見るよりも、住みやすいかも。いや、そんなはずはない。