南太平洋の島国は日本にとても身近な国

南太平洋 12 ニューカレドニアは天国に近い島、 違います!日本に近い国です

 フランス領ニューカレドニアが12月12日、独立するかどうかを問う投票が行われました。結果は独立反対が多数を占めました。日本ではニューカレドニアといえば「天国に近い島」というイメージを思い浮かべる人が多いはず。小説家の森村圭さんが1966年に発表した旅行記「天国に近い島」のインパクトがそのまま、まだ日本で生きています。半世紀以上も前のイメージが残っているのですから、いかに身近な存在ではないのかがわかります。

 今回の独立投票の結果についても遠い南太平洋の彼方の話と捉えるメディアがほとんど。しかし、日本の将来にとって大事な島、とても身近な島であることを認識して欲しいです。

「天国に近い島」は半世紀以上も前のイメージがまだ残る

 独立投票の結果は反対票が圧倒しました。反対票は全体の96%以上を占め、賛成票は3%超にとどまったそうです。各種メディアを参考にすると有権者約18万人のうち投票したのは約8万人。投票率は44%程度です。独立を主張するグループがコロナ禍で街がロックダウンするなど思うような選挙運動ができなかったこともあり、投票のボイコットを呼びかけていました。

 独立反対が大半を占めて賛成がわずかにとどまったのもボイコットの影響ですから、独立反対の票が国全体の民意を正確に表したかどうか判断は分かれるでしょう。

 ニューカレドニアはオーストラリアの東へ1500キロに位置し、東京からだと7000キロも南にあります。赤道に近い南半球ですから、地球儀のどの辺にあるのか想像つかないかもしれませんね。私が訪れた時も日本人観光客や結婚式を挙げる夫婦を見かけますが、欧米の観光客に混じっている感じで少数派でした。

 フランス語圏なので米国の観光リゾートと違った雰囲気を味わえます。海は透き通った青色に染まり、砂浜は真っ白。魚はきれいな熱帯魚ばかり、当たり前ですね。フランス領ですからワインも料理もうまい。首都のヌーメアや点在する島々などは海外の観光客が抱くイメージを裏切らない施設と雰囲気を醸し出しています。日本人じゃなくても「天国に近い島」と勘違いするのはおかしなことではありません。

日本の製造業に大事なニッケルを産出

 しかし、南太平洋の楽園そのものに映る表舞台を離れ、舞台裏を覗くと風景は変わります。ニューカレドニアの人口は約27万人で、そのうち40%ほどが先住民のカナックです。欧州系はフランスを中心に24%程度。フランス領ポリネシアのタヒチ島などが観光産業に依存している構図とは違い、主要産業はニッケル鉱山による資源開発です。世界でも有数の産出量と埋蔵量を誇っており、日本が輸入するニッケルの50%ほどはニューカレドニアで産出されたものです。

 ニッケルはレアメタルの一つで、ニッケル合金や充電式のニッケル電池などの身近な製品に使われています。地球温暖化への対応策としてガソリン車から電気自動車への普及が進んでいますが、電気自動車には充電式電池が欠かせません。また日本が得意とする高付加価値型の製品を生産するための重要な原料です。

 世界的にも重要な資源を輸出しているだけに、一人あたりのGDPはニュージーランドなどを上回り、一見豊かに見えます。しかし、フランス人を頂点とした経済格差の構図は変わりません。フランスの植民地ですからね。鉱山をはじめ土地所有権など経済活動の重要な権益はフランス政府やフランス本国の企業が握っています。

 ニューカレドニアの本島をぐるりとひと回りすると次々と変わる風景が物語ってくれます。首都ヌメアはフランスの華やかな街の空気を漂わせていますが、本島の西側へ向かうと一変します。乾燥地帯ということもあって南太平洋のイメージそのものである豊かな熱帯樹林やビーチは消え、荒涼とした自然が広がってきます。

 とりわけニッケル鉱山は露天掘り方式を採用しているので、山肌は鉄分を含んだ赤黒く染まっています。その様変わりの差に「ここはニューカレドニアなのか」という素直な疑問を抱くはずです。

 人口の40%を占める先住民カナックの人々は自分たちの生活の向上とともに、自治権を求めます。それが独立運動に発展するのは自然の成り行きです。1950年代から独立運動は活発になり、暗殺や虐待など凄惨な事件が発生しています。1998年にフランス政府とヌメア協定が成立しますが、独立するかどうかの住民投票とともに、「ニューカレドニア市民権」と言われる概念を設定することも盛り込まれています。フランス市民とは別の市民権とはどういうものなのかわかりませんが、とても平等な人権主義から生まれる発想ではないです。

 独立するかどうかを決める投票は2018年に初めて実施され、反対が56%、20年に2回目が実施されて反対が53%を占めています。人権や経済など面で格差があるとはいえ、国の経済はフランスが大きく関わっています。先住民のカナックの人々も迷うのは当然です。3回目はコロナ禍の影響を大きく受けたのは事実です。

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