• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

アインが「さくら薬局」買収 大谷社長のM&Aはまだまだ続く

 「あんたのところの新聞がね、企業買収を中立に報道してくれないと困るんだよ」。調剤薬局トップのアインホールディングの創業者、大谷喜一社長に初めてお会いしたら、挨拶がわりに一発かまされました。もう15年ぐらい前の出来事です。当時、経済に強いと言われた新聞社で北海道の支社長を務め、文字通りあいさつで札幌市の本社をお訪ねしたのですが、軽いパンチをいただきました。

挨拶がわりにパンチ

 アインは数年前、ある調剤薬局チェーンを買収しようとしていました。M&Aといえば友好的にまとまるのが当時の常識。ところが、両社の交渉は相手から反発され、アインの攻めの姿勢が話題を集めました。新聞では双方の意見を公平に伝えたつもりでしたが、大谷社長は買収相手の意見が中心に解説され、アインが強引に進めているという印象を多くの読者に与えたと受け止めていました。プロレスでいえばヒール役ですか。

 企業買収を繰り返して日本最大の調剤薬局チェーンを育て上げた大谷社長です。企業買収は資本の論理に従って決着するもの。感情的な善悪で左右されるのは、おかしいと考えるのは当然です。「記者の技量が不足でした」と大谷社長が繰り出すパンチをかわしながらも、これがM&Aを仕掛ける経営者が放つオーラなのだと敬服した思い出があります。

 大谷社長のM&Aにかける気力は15年過ぎても衰えをみせません。2025年5月29日には「さくら薬局」を運営するクラフト(東京・千代田)の全株式を取得すると発表しました。取得価額は591億円。負債含めた実質的な買収総額は1000億円を超えるそうです。

調剤薬局のトップシェアをさらに拡大

 アインの調剤薬局事業は2024年4月期で売上高3575億円。クラフトは2024年3月期で1536億円で、単純合算で売り上げ規模が5000億円を超える調剤薬局チェーンが誕生し、市場シェアトップの地位を一段と固めます。

 それでもまだ足りません。調剤薬局は2年ごとの報酬改定のたびに報酬が引き下げられるうえ、薬局チェーンはドラッグストア同様、多店舗展開によって競合は激化する一方です。アインは市場の4%程度を握っていますが、大谷社長は10年以内に8%まで引き上げる方針です。「さくら薬局」の次に向けて新たなM&Aを仕掛けているはずです。

 調剤薬局事業以外でもM&Aを駆使しています。1年前の2024年7月には、インテリア雑貨店のフランフラン(東京・港)を買収しました。買収額は約500億円。

フランフランも買収

 アインは商品の9割が雑貨や化粧品を主体としたドラッグストア「アインズ&トルぺ」を展開しており、若い女性層に人気が高いフランフランと重なります。東京を中心に80店以上を展開していますが、売上高は300億円超と調剤薬局の10分の1以下。それでも利益率は10%と調剤薬局の8%を2ポイント程度も上回ります。アイン全体の収益を安定させるためにも、若い女性を中心にした小売り事業を底上げして、2030年4月期には2000億円に引き上げたいそうです。フランフランの400億円を加えて小売り事業1000億円に目処をつけましたが、目標にはまだ足りません。こちらもM&Aが続きます。

 調剤薬局はドラッグストア同様、競争激化に合わせてM&Aが加速しています。ドラッグストア事業に注力するイオンは、1位の「ウエルシア」と2位の「ツルハ」の一体化を決めたばかり。ダントツのシェアトップに躍り出ますが、波乱はまだ続きそうです。当然、競合関係にある調剤薬局も規模拡大によるシェア拡大に走り、ドラッグストアと調剤薬局の熾烈な白兵戦が始まっています。

イオンにもパンチを

 市場シェアトップのイオン、アインに共通するのは、創業期からM&Aを繰り返して競争力を高めてきたことです。単に経営規模が大きいということだけでなく、企業買収を決断する経営者の器量、胆力が抜きん出ているのでしょう。アインの大谷社長が体力、気力でイオンなどに負けるはずがありません。ジャブどころか、ストレートパンチを浴びせて、「アイン〜」とノックダウンさせてください。

関連記事一覧