自動車産業が消える⑥車のバッテリー投資競争が、EVの未来も世界の産業も変える
日本が電気自動車(EV)用バッテリーで劣勢に立っています。CO2を排出する内燃機関ガソリンエンジン車で世界のトップグループを走る日本。もともとは、EVの性能の鍵を握るバッテリーでも研究開発のパイオニアでした。ところが、今では半導体、液晶テレビが演じた歴史を繰り返し、投資競争に遅れを取り、中国や韓国に追い抜かれています。このまま取り残されてしまうのでしょうか。
日本はEVバッテリーで遅れ
世界の車載用バッテリーのシェアを見てみます。2022年上半期でみると、中国のCATLが世界シェアの34%を握りトップ。続くのは韓国のLGグループの14%程度。3位は中国のBYDが12%を占めます。ようやく第4位に日本のパナソニックが顔を出します。かつては世界一の座を占めていたのですが、今はシェア10%程度。
電機メーカーが支配する世界のEV用バッテリー市場。その構図が大きく変わるかもしれません。日本の自動車メーカーが一斉にバッテリーへの巨額投資を開始しているからです。
トヨタ、日産、ホンダは巨額投資
トヨタ自動車は日米で約56億ドル、日本円で7300億円超を車載用バッテリーに投資します。2024年から本格生産します。4月7日には豊田章男社長から佐藤恒治社長へ移行するに伴い、2026年までにEVの新車10モデルを投入し、世界販売を年間150万台に増やすと発表しました。バッテリーは2024年から生産し、これに続き25年からEVの米国生産も開始します。
EVで先行する日産自動車は、日立グループや官民ファンドが出資するビークルエナジージャパン(VEJ)を買収しました。ビークルエナジージャパンには、マクセルが出資しています。マクセル は23年秋から全固体電池の量産を世界で初めて開始します。全固体電池はリチウムイオン電池の欠点を克服する性能を備えており、EVの使い勝手を一気に改善すると期待されています。次世代電池の開発も加速します。
2040年にEV全面転換を宣言したホンダは韓国LGエナジーソリーションと合弁でリチウムイオンバッテリー生産工場を米国に建設します。
中国、韓国依存の修正、次世代電池の開発も視野
トヨタも日産もホンダも狙いは同じ。車載用リチウムイオン電池の安定した調達先を傘下に収め、中国や韓国勢に依存する体質を改めるとともに、性能とコストの双方で優位性を持つ次世代電池の開発をめざすことです。
説明するまでもなく、バッテリーはEVの最重要部品のひとつです。ガソリン車を購入する際、かならず燃費の良し悪しを確認しますが、EVも同じ。走行距離を決める電費はガソリン車の燃費に比べかなり劣るため、EVが本当にガソリン車の代わりを担えるかどうかは、バッテリー性能にかかっています。価格も割高。EVの車両価格の40%を占めるといわれています。蓄電、価格の課題を日本が得意とする生産の合理化で克服し、トップグループを占める中国、韓国勢を追い上げる計画です。
EV以外の産業も変えるインパクト
EV用バッテリーの投資競争は、EV以外の産業にも影響を与えます。自動車メーカーは、システムインテグレーターです。ホンダを見てください。創業者の本多宗一郎の夢だった航空機進出を果たし、ビジネスジェットで成功を収めています。
このシリーズで繰り返し強調していますが、EVへのシフトはエンジンを置き換えた自動車が増えることではありません。近未来を見透して自動運転のみならず、地上を離れ「空を飛ぶ自動車」の開発も視界に入れています。バッテリーは内蔵する最先端の機能をフルに引き出すエネルギーです。
コンピューターの世界に例えれば、インテルやアップル、東芝、サムスンなどが開発・生産する高性能の半導体が情報機器の進化を支えた役割と重なります。
ゲームチェンジャーに躍り出てほしい
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダをEVの未来を描くゲームチェンジャーとして期待したい理由です。陸も空も移動する自動車を想定した場合、実現に必要な駆動系、耐久性、生産コストなどの課題をクリアしなければいけませんが、電池メーカーだけでは解決できません。最も多く知見を持っている日本車メーカーが電池、情報技術の企業とより深い連携を重ねながら、実現の道のりをひた走るしかありません。
産業の境目は吹き飛ぶ
もはや自動車、電池、情報技術などといった産業の境目は無意味です。EVは自動車とエレクトロニクスの境目を吹き飛ばし、全ての産業の融合した結果として進化した姿を表します。バッテリーの業界地図はあっという間に変わるはず。当然、自動車産業の姿も・・・。