• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。
  • HOME
  • 記事
  • ZERO management
  • 自動車産業が消える③欧州のEV転換延期は朗報か 日本は今こそEV加速を 半導体凋落を教訓に

自動車産業が消える③欧州のEV転換延期は朗報か 日本は今こそEV加速を 半導体凋落を教訓に

 欧州連合(EU)が電気自動車(EV)政策を条件付きで延期します。2035年には新車すべてをEVに切り替え、エンジンを搭載する新車販売の禁止を決めていましたが、環境負荷を減らした合成燃料「e-Fuel」を利用する条件付きでエンジン車の販売を認めることにしました。欧州に比べてEV開発で遅れが目立つ日本にとっては朗報に聞こえるかもしれません。しかし、ここで足踏みしたら、世界一の座が滑り落ちた半導体の二の舞を演じることになります。

エンジン車のe-Fuel利用を認める

 e-Fuelは、太陽光や風力など再生可能エネルギーを使って得た電力で水素を製造、その後CO2と化学反応させて生産されます。液体と気体の2種類ありますが、自動車の場合は液体燃料を現在のガソリンに代わって通常のエンジンで燃焼でき、排ガス処理関連もそのまま利用できるそうです。

 従来のガソリンと最も異なるのは、カーボンニュートラルを実現できることです。水素を製造する際に再生可能エネルギーを利用するほか、製造工程でCO2を原料として利用します。自動車用エンジンの燃焼でCO2が排出されますが、製造工程でCO2を原料として吸収しようしているわけですから、単純化すれば利用と排出は差し引きゼロ、いわゆるカーボンニュートラルとなるわけです。

背景にはドイツなどの”反乱”

 EUが2022年に決めたEVへの全面転換を覆した背景には、ドイツの”反乱”があります。ドイツは日本や米国と並び、自動車が経済を支える基幹産業。フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなどはこぞってEVへの転換を表明したものの、エンジンが無くなれば関連する部品産業は吹き飛びます。雇用不安を招くとして労働組合はじめ各方面から修正の声があがっていました。

 ドイツのみならずイタリアや東欧など自動車産業を抱える国々も事情は同じ。EVへの全面転換に対し懸念は次第に広がり、ドイツ政府はEUに対しe-Fuelはじめバイオなどを含めた合成燃料の利用を容認するよう求めていました。

 日本の自動車産業はホッとため息をついているでしょう。EV以外の販売禁止の対象には日本が環境対応車として世界的な競争力を持っていたハイブリッド車も入っており、欧州向け輸出や現地生産体制を大きく軌道修正する必要があったからです。

EVへの潮流は変わらない

 しかし、エンジン車からEVへ転換する潮流に変わりはありません。今こそEVの新車開発にアクセルをさらに踏み込むチャンスです。新車投入ではすでに欧米に差がつけられており、欧米の自動車技術を主導するドイツがEV転換に手間取る間に追いつき、追い越す時間を手にできたのですから。

 しかも、e-Fuelの利用は日本にとっても新たな課題を突き付けます。完全なカーボンニュートラルを実現するためには、太陽光など再生可能エネルギーによる発電の拡大が必要ですが、発電体制でも日本は欧州にかなりの差をつけられています。再生エネ、製造設備、供給体制などを改めて再構築するぐらいの覚悟を持って、日本がEV、e-Fuelを取り込む努力をしなければ現状と何も変わりません。

EV開発の加速を

 ハイブリッド車が息を吹き返したと考えるかもしれません。e-Fuel利用が普及すれば、ハイブリッド車の需要が欧州など他地域でこれまで以上に広がるが可能性が出てきましたが、あくまでも予想より延命する道が拓けただけ。

 むしろ日本のEVの開発スピードが鈍るのではないか心配です。ホンダは2040年までにすべての新車をEVと燃料電池車に切り替えると宣言しています。EUの方針転換でe-Fuel向けのエンジン車を開発する必要があると判断するのか。もし必要とするなら、新車戦略にも修正が加わるかもしれません。

 トヨタ自動車はどうでしょう?豊田章男社長は日本自動車工業会会長の立場からEVへの全面転換が雇用、企業経営に与える衝撃に対し懸念を表明しています。4月に新社長に就任する佐藤恒治氏はEV開発を大きく掲げていますが、豊田章男路線から逸脱するわけがない。欧米に取り残される心配がなくなった分、駆け足から早足へシフトダウンする恐れがあります。

世界トップの半導体はなぜ凋落したのか

 半導体を思い起こしてください。1980年代、自動車と共に世界最強の競争力を誇り世界の市場シェアの過半を握っていました。技術開発でもトップ。韓国サムスン電子が追撃しても、すぐに引き離す実力の差を持っていました。

 しかし、次代の潮流を読み誤ります。即断即決のサムスンに投資競争に敗れ、スマホ向けの半導体開発では欧米に太刀打ちできません。生産面でも台湾の受託製造会社に世界シェアを奪われ、最先端の技術を持っていたナノレベルの設計・生産でも今やIBMに教えを乞う立場です。

e-Fuelでホッとするドイツを追い抜くぐらいの挑戦を

 EVは単にエンジンから電気モーターに切り替わることだけではありません。インターネットを活用した情報技術を駆使し、自動運転、音楽や映像などのエンターテインメントなど自動車に纏わる技術、移動の意味すべてがゼロから変わる時代の到来を告げているのです。

 ドイツがe-Fuel活用でホッとしている間に、日本は欧米や中国を抜き去るぐらい、EV開発のボルテージを上げてほしい。日本政府も10年前の半導体の苦い思いを教訓にEV開発を本気で推進してほしい。

関連記事一覧