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ホンダが消える 提携の成算が見えない 日産はGMとは違う

 「成算が見えない」。ホンダと日産自動車の協業に対する素直な感想です。この40年間、両社の提携戦略を眺めてきました。日本の基幹産業である自動車メーカーだけに、華々しい提携は注目を集めます。自社の未来を切り拓く「持ち駒」を増やすのが目的と割り切れば、結果が尻すぼみでも問題はありませんが、実際に合格点を超える成果はいくつあるのか。日産の場合、ルノーとの資本提携を成功事例と数えるかもしれませんが、あの時は何もしなければ両社共倒れの経営破綻が待っていました。ホンダと日産は”経営破綻の覚悟”を抱き、今回の協業を電気自動車(EV)に活かすことできるのでしょうか?

世界一を目指し、独自路線を貫く

 ホンダは独自路線を貫いてきたとよく言われます。1960年代、当時の通産省の反対を押し切ってトヨタ自動車、日産自動車などが支配する自動車の4輪事業に新規参入したホンダです。孤立無縁は覚悟のうえ。創業者の本田宗一郎氏が創業7年を迎えた時に全従業員に対し「世界一になって、初めて日本一になる」と説いた言葉がホンダの経営戦略の根幹を物語っています。

 頑固一徹だったわけではありません。自らの弱点を補う目的で適宜、提携を実現しています。例えば海外戦略。高い評価を集める米国での現地生産は単独で進めましたが、ブランドの知名度が低い欧州では英国ブリティシュ・レイランド(後のローバー)と業務提携を選び、1979年から委託生産を始めました。1990年には資本提携に発展させ、1992年にホンダの英国工場を立ち上げます。閉鎖的な欧州の扉を10年以上の時間をかけてこじ開けました。派手なブランドイメージと違って我慢強いのです。ただ、BMWのローバー買収によって、ホンダとローバーの提携は消えました。

ローバー、GMと弱点を補う提携

 EVや燃料電池車で提携するGMとも長い熟成期間をかけています。1990年代からGMと提携するとの憶測が飛び交っていました。その理由の一つが「400万台クラブ」。エンジン、シャーシーなど基幹部品を大量生産して価格競争を勝ち抜くためには、生産台数400万台が必須条件といわれたのです。ホンダと日産が協業するきっかけとなったEVの現況と同じです。駆動系「イーアクスル」、シャシー、バッテリーを大量生産して、ようやく低価格の中国製EVと勝負する挑戦権を得るとの考え方です。

 1990年代、ホンダは「400万台クラブ」に手が届かない経営規模だったため、GMが最有力候補との声が出ていました。実際にGMとの提携関係が誕生したのは1999年。GM系列のいすゞ自動車からのディーゼルエンジン供給です。ホンダはディーゼルエンジンを生産しておらず、ディーゼル人気が占める欧州で販売を維持するために決断しました。2000年にはホンダが米ゼネラルモーターズ(GM)に環境対応型のV6型エンジンを供給することに合意。GMに飲まれる提携はしません。

 2013年、燃料電池自動車でも手を組みます。残念ながらなかなか成果があげられない中、2020年4月にEVの共同開発を合意します。EVに欠かせない基幹部品、ソフト開発の遅れをGMとタッグで取り戻そうというわけですが、こちらもなかなか目標に手が届きません。完全自動運転を謳ったEVタクシーも発表直後に北米でトラブルが相次ぎ、先行きに不安が漂っています。それでもホンダがGMと手を切らないのは、1980年代に世界最大の自動車メーカーとして君臨した誇りをようやく捨て去り、自動車メーカーとして生き残ろうと必死な姿を見て、まだ信頼できると考えているからではないでしょうか。

ルノーを見切った日産と信頼関係は?

 日産はどうでしょうか。多くの提携を繰り返していますが、ルノーと三菱自動車の提携の成果を見るのがわかりやすいでしょう。中国製EVに対抗する目的でEVの基幹部品などの大量生産やソフト開発などを最優先するなら、これまで手を組んできたルノーと深化させるのが王道と誰も考えるはずです。ところが、ホンダを選んだのは、1999年以来のルノーとの提携に嫌気をさした日産が組み易い相手と判断したからです。好き嫌いはともかくルノー出身のカルロス・ゴーン氏が日産を再建したのは事実です。しかし、ルノーによる乗っ取りを恐れ、縁を切るシナリオを密かに描いていたのも事実です。

 ホンダとの協業を発表した15日の記者会見の空気が全てを表しています。経営のトップがまだ信頼関係ができないまま、提携が始まっても、頓挫するのではないか?誰もが危惧するはずです。

 ホンダの提携の歴史を振り返れば、成果を引き出すまでに長い年月をかけています。それは当然です。人間の命を預かる自動車の開発は、高度な技術と安全基準があって初めて前進します。今回の日産との協業はあまりにも拙速です。EVへの移行は急務とはいえ、技術的なすり合わせ、互いを信頼する思いがまだ熟成していません。現時点で成算が見えるわけがありません。

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