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公取委 ビックカメラに下請法違反「暗黒大陸の流通」に切り込む令和のメス

 公正取引委員会が家電量販店のビックカメラを下請法違反と認定しました。家電のプライベートブランド(PB)を製造委託する中小企業に対し納入代金を一方的に減額したからです。公取委はここ数年、下請け企業に対する不当な契約や支払いに対する監視を強めており、流通業界ではドンキホーテや会員制スーパー「コストコ」を摘発しています。ディスカウントストアの代名詞であるビックカメラにも切り込み、優位な立場を利用した値引きや販売奨励金と称する「上納金」が当たり前の流通業界により深く切り込む姿勢をみせました。

1社当たり1000万円を減額

 公取委がビックカメラのPB取引で違法と認定した金額は約5億円。対象企業は約50社ですから、1社当たり1000万円を巻き上げた計算です。PB製品を下請けする中小企業は元々、利幅が薄いのでかなりの痛手を被ります。新聞などの報道によると、2023年夏から約1年間、支払い代金を一方的に減額しています。

 ビックカメラが収益改善に躍起になっている頃と符合します。2023年8月期は売上高が前期比2・9%増の8155億6000万円と増収を維持しましたが、営業利益は20・4%減の142億1500万円と大幅減益。翌年の決算に向けて収益力を取り戻すため、仕入れ部隊に喝を入れたのでしょう。

 効果はてきめん。1年後の2024年8月期は売上高が13・1%増の9225億7200万円、営業利益が71・6%増の243億8800万円と大幅な増収増益に転じました。PBを軸に他店に比べ割安な商品群を揃えて売上高を押し上げる一方、利益を稼ぎ出すため下請け企業に支払う代金を大幅に下げる。ビックカメラならではの剛腕を発揮すれば、好決算を演出するのは簡単なのかもしれません。

 ビックカメラのPB製品は2018年から本格化しており、800品目ぐらいあるそうです。通常の家電メーカーからの仕入れ販売ではライバル店との価格競争で差別化できないため、価格を抑えたPBに力を入れていますが、安くても品質が悪いPBは売れるわけがありません。価格は安くても、品質は有名家電メーカー並みの水準を達成するしかありませんが、ビックカメラも下請け企業もそんな魔法を使えません。できることは、仕入れる下請けメーカーに原価を下げてもらうしかないのです。流業界に長く残る商慣行に則ってビックカメラが販売奨励金の名目で仕入れ価格を減額する交渉風景が目に浮かびます。

 当然、下請法は違反です。発注者の大企業が下請けの中小企業と合意した支払い代金を無視して金額を減らすのは禁じられています。ビックカメラは違反を認め、業者側に減額分を支払ったそうです。

ドラッカーが暗黒大陸と呼ぶ

 1960年代、米経営学者のピーター・ドラッカーは流通業界を世の中に知られていない商習慣が生き残っている「経済の闇」と捉え、暗黒大陸と呼びました。私が1980年に新人の新聞記者として流業界を取材した頃、日本はまだ暗黒時代が続いていました。デパートやスーパー、商店などの小売業界、商品を仕入れて配送する卸業界など複雑怪奇な商流は、まさに闇でした。

 1980年当時、商流の要である問屋の営業利益率は1%を切るところがが多く、どうやって経営が存続しているのか不思議でした。中小の問屋さんの社長にお会いすると、発注者から降ってくる無理難題は日常茶飯事のせいか、「問屋など流通業者は生かさず殺さずが鉄則」と苦笑しながらなんでも教えてくれました。

 それから45年間も歳月は過ぎましたが、暗黒大陸は依然、存在していました。

 おもしろいのは、公取委が下請け法違反で摘発する流通業の企業名を見ていると、次第に闇のコアに攻め込んでいるのがわかります。ドン・キホーテはいわゆる在庫整理を急ぐ業者から仕入れ、どんどん捌くスタイルですが、店舗網の拡大に伴い増大する販売量に対応するため、仕入れ業者に値引き要求する場合が増えてしまいました。コストコは、米国流と称して大量仕入れを標榜しながらも仕入れ価格を一方的に値引きスタイル。力技で薄利多売を高利多売に変えるわけです。

PBの摘発は公取委の本気度を感じる

 これに対しビックカメラの場合は、より闇が深い。PBの取引ですから、下請け企業とは製品設計から交渉しながら価格設定します。意地悪な見方をすれば、価格設定の段階でもかなり無理なお願いが反映されているはずです。ただ、発注者と下請け企業が合意した価格は下請法違反にはならず、公取委が証明しようとしてもかなり手強い案件になるでしょう。

 ところが下請法違反とわかっているにもかかわらず、ビックカメラは一方的に減額を求めてしまいます。やはり利益をなんとか捻り出したかったのでしょう。長年、体に染み込んだ値引きという商慣行は優位な立場にある発注者にとって魔法なのです。

 PBという世界に切り込んだ公取委が挑む流通業界の「下請いじめ」の退治はいつまで続くのか。その本気度が試されています。

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