
EVのBYDが利益を3割超、1990年代のサムスン電子と重なる政府の影
中国のBYDが2024年に純利益を大幅に増やしています。ハイブリッド車や電気自動車(EV)の新車販売は2024年だけで4割以上も増えており、米テスラと並ぶ世界一のEVメーカーに急浮上した勢いがそのまま反映されています。スマートフォンなど電子機器も好調に伸びており、その半端ない収益力に驚きますが、どうも納得できません。この1年間、あれだけEVを軸に設備増強すれば、むしろ固定費などが経営の重荷となって決算数字の足枷になるはず。
新車販売は4割増
1990年代の韓国・サムスン電子の成長軌道と重なります。巨額投資を繰り返して当時シェア世界一の日本製半導体を抜き去り、同時に収益力を伸ばし続けた経営戦略の陰には政府の「見えざる手」がありました。2020年代のEV市場では中国政府が黒子を演じながらも、実は主役としてBYDなど中国勢のEVメーカーの背中を押しているようです。
BYDが発表した2024年12月期決算によると、売上高は前期比29%増の7771億元と3割近くも伸び、これに伴い純利益も34%増の402億元(円換算で約8300億円)となりました。売上高の8割を占める自動車関連事業は28%増えており、大黒柱の新車販売は前期比41%増の427万台と躍進。乗用車の内訳はEVが1割増の176万台、プラグインハイブリッド車(PHV)が7割増の248万台。スマートフォンの部品生産や組み立てなどスマホ関連事業も売り上げを35%増やしました。
大幅増益の理由として量産効果を上げています。中国の国内市場は相次ぐ新規参入で価格競争が激しくなっていますが、量産効果で自動車関連事業の粗利益率が上昇したそうです。自動車祖業のバッテリーはじめEVの基幹部品の生産コストが下がり、自動車関連事業の粗利益率は22%と1ポイント上昇しました。
BYDは海外販売を伸ばしており、乗用車販売は7割増の41万台。特に欧州市場では欧州製EVを駆逐しており、飛ぶ鳥を落とす勢いを堅持しています。売上高でも29%を占め、海外事業の粗利益率は18%と11ポイントも上昇しています。2024年はタイで新工場を立ち上げたほか、インドネシアやギリシャにも進出しています。
もっとも、中国国内の部品調達コストが低下したからといっても、欧州メーカーが太刀打ちできないほどのコストを実現を達成するのは可能でしょうか。海外の販売地域を広げながら、海外の工場を新規稼働させているわけですから、海外事業の粗利益率が11ポイントも上昇するのはなんとも不思議です。欧州連合(EC)が中国政府による輸出促進策を目的にした助成金を指摘して、2024年7月に中国製EVに対し追加関税するのも当然と思われる数字です。
割安EVで欧州勢を駆逐
繰り返しになりますが、3割を超える利益増は信じられません。生産と販売が大幅に伸びたからといって、そのまま利益増に直結するほど製造業は単純な経営構造ではありません。増産に向けて工場などの設備投資、人材採用の負担が急増するほか、新しい工場の立ち上げ時は試運転期間も必要です。生産効率はむしろ低下し、利益増よりも一時的なコスト増が待ち受けています。
BYDは2024年だけで新車販売4割増です。200万台以上も増えています。いくら量産効果といっても、通常の自動車工場は20万台程度ですから、10ヶ所分の工場が1年間で新たに上乗せした計算です。BYDは私の予想をはるかに上回る完璧な経営能力を持っているのかもしれませんが、自動車生産はそんなに甘くありません。
半導体で世界トップに躍り出た1990年代の韓国サムスン電子を思い出します。東芝などから技術導入して開発コストを節約しながら、生産投資を急増する経営戦略は功を奏し、1992年にDRAMで日立製作所や東芝、NECを上回り、世界シェアトップの座を奪いました。日本メーカーが躊躇する巨額投資をサムスン創業家出身のトップが大胆に決断し、最先端の半導体生産で日本を抜き去りました。
政府の資金支援が背中を押す
当時も日本メーカーから韓国政府の資金的な支援が指摘されていました。技術支援していた日本のあるメーカーは、「政府からキックバックみたいな助成金がある」と決算数字から読み取れない複雑な資金の流れを教えてくれました。結局は現在、日本の半導体は韓国に続き台湾、中国から置いてきぼりを食う窮地に立っています。
BYDは今後も好決算を連発するのでしょう。なんとも空疎な思いで数字を眺めてしまいます。