
デンソー EV半導体を加速 エヌビディアを追い、系列と自動車部品の殻を破って!
デンソー が半導体開発を加速しています。電気自動車(EV)は人工知能(AI)と通信機能など使って自動運転するため、多くの情報を処理する高度な半導体が必須です。デンソー はEVの頭脳ともいえる半導体設計で主導権を握り、これから普及するEV部品の心臓部を取り込みたいのでしょう。トヨタ自動車系列トップとして資本力、技術力に心配はありません。むしろトヨタ系列の自動車部品メーカーの枠を超えて世界企業として飛翔できるのか。日本の自動車産業の進化を考えると、エヌビディアをキャッチするぐらい頑張って欲しい。
半導体は1980年代から
デンソー は1980年代から半導体開発に取り組んでいます。自動車のエンジン制御や駆動系の電子化が進み、電装部品を主力とするデンソー は半導体の開発・生産に注力せざるを得ませんでした。ところが、デンソーなど系列部品メーカーの頂点に立つトヨタ自動車が突然、自ら半導体工場を建設する計画をぶち上げます。自動車は3万点以上の部品を組み立てて完成しますが、デンソーがトヨタが理解できない半導体や電装部品を開発、生産すれば、部品の値引き交渉が不可能になってしまいます。トヨタは自ら半導体工業を建設して、デンソー の独走に待ったをかけたのです。
日本の自動車産業は、トヨタに限らず日産自動車やホンダなど完成車メーカーを頂きに数えきれないほどの部品メーカーが支えるピラミッド構造で出来上がっています。例えば、トヨタと取引する部品・下請け企業は7万社近くもあるそうです。トヨタが5兆円以上も稼ぎ出す利益の源泉は、この無数ともいえる部品メーカーに対する価格交渉を握っていることといえるでしょう。
しかし、EVの普及は自動車の産業ピラミッドを打ち崩します。エンジンは電気モーター、燃料タンクや排気系はバッテリーなどにそれぞれ形を変え、部品点数も一気に減ってしまいます。しかも、モーターやバッテリー、シャーシー・サスペンションなど走行性能を左右する基幹部品は電気で駆動しますから、当然のように最先端の電子制御が導入され、運転もインターネットやカメラで得られる位置情報や周囲の状況に合わせて人工知能が操作する自動化に向かいます。
EVの頭脳であり心臓部
EVの優劣を決めるカギは、人工知能を軸にした電子制御を正確に、しかも瞬時に実行する半導体、さらに刻々と変わる電子データを活用するソフトウエアであることがわかります。日産やホンダが経営統合するかどうかで大騒ぎしましたが、両社が協業するきっかけはクルマの基本ソフトを開発するコストが膨大な金額になるためです。EVがソフトウエアで定義されるクルマ(Software Defined Vehicle)と呼ばれる所以です。
デンソー が照準を合わせる半導体は車載用システム・オン・チップ(SoC)と呼ばれています。2025年1月に専門部門「SoC開発部」を新設しました。SoCは複数の電子回路を1つの半導体チップ上に集積しており、最先端半導体の設計思想の主流になっています。これまで通り自動車部品に適した性能を半導体メーカーに伝えても、高度化するEVに適した半導体を設計するには自動車を知り尽くしたデンソーが深く関与しなければ、「痒いところに手が届かない製品」になってしまう恐れがあります。
米クアドリックと共同開発も
2024年10月、米クアドリックと車載用半導体の共同開発で合意したのも、最先端の半導体設計を取り込むためでした。クアドリックはAI処理に適した技術を持っています。自動車メーカーによってAIをどう機能させるかに違いがあっても、安全性の高い自動運転を実現できる技術力を誇示する狙いもありました。
デンソーは開発しても、生産は量産化が専門の受託メーカーに任せる発想です。デンソーは世界最大の半導体メーカーである台湾・TSMCが熊本県で建設している半導体工場に出資していますが、こうした提携関係をてこにデンソー独自の半導体を生産していくのでしょう。
もちろん、デンソー同様、自動車メーカーや部品メーカーは「SoC」開発に力を入れています。デンソーと並ぶ世界的な自動車部品メーカーの独ボッシュも半導体開発を次代の事業の柱と位置付け、猛烈にアクセルを踏んでいます。当然、AIに強いエヌビディアなど半導体メーカーもEV向け半導体に注力するでしょう。
デンソーは一度決めたことはかならず実現する会社です。EV向け車載用半導体でも独創的な技術を確立して、世界から注文が集まる新たな事業として育て上げるでしょう。近い将来、トヨタ系列という枠を超え、世界の自動車の進化を支えるメーカーに変貌しているはずです。その時、トヨタなどの系列に支えられた日本の自動車産業は、現在と全く異なる風景となっているのです。