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ディスコ 切磋琢磨で高収益 21世紀のヤマトは製造業の未来もMigaku

 彫刻家、平櫛田中さんの美術館を訪れて驚いたことがあります。代表作「鏡獅子」は6代目尾上菊五郎がすぐに動き出すかのようなオーラを発していますが、平櫛さんは古代ローマ時代から利用されている星取り法という技法を使って、写実的な木彫を制作していたことでした。

平櫛田中さんの彫刻とディスコが重なる

 星取り法は、まず粘土で制作する原型を作り、型取りして石膏像を作ります。その石膏像をもとにコンパスのような器具を使って石膏像に位置を測定、その位置を彫刻素材の木材に星マークのような点を打ち、精緻な成形に仕上げます。感性だけに頼らず数値も重視する平櫛さんは、モデルと瓜二つの写実性を再現する彫刻刀の切れ味にはこだわっていたそうです。

 高収益企業として投資家などから高い評価を集めるディスコの経営モデルを考えると、平櫛田中さんの制作過程と重なります。第二次大戦前の1937年に創業、砥石の技術をもとに事業化しました。呉市は日本帝国海軍の本拠地で、戦艦大和を建造したドッグは今も健在です。砥石の技術は単純に映るかもしれませんが、大砲などの精度を左右する高精細なレベルを求められたそうです。もっとも、創業当時は同業他社に勝てず、本社を東京に移しました。

 塞翁が馬です。終戦後、電力計メーカーの受注をきっっかけに精密加工ビジネスに飛び込みます。「高度なKiru ・Kezuru ・Migaku 技術」を掲げ、半導体など最先端の電子部品産業を支えるメーカーに転身することに成功しました。大袈裟な表現になりますが、呉市から生まれた21世紀のヤマトとしての出現を感じます。経営規模を考えると、戦艦ヤマトというよりは、機動力を発揮する駆逐艦ヤマトになるかもしれません(笑)。

 業績は説明することもないでしょう。2022年3月期決算で売上高が38・8%増の2537億円、営業利益は72・3%増の915億円、純利益は69・4%増の662億円。営業利益率は36・1%と40%に迫ります。純利益率は26・1%。「素晴らしい」の感嘆の声しかありません。半導体の世界的な需要拡大を反映し、高成長と高収益は維持する公算が大きいでしょう。

 本稿は経営分析が目的ではないので、沿革と決算の状況は以下のアドレスをクリックして参照ください。

沿革は、https://www.disco.co.jp/jp/corporate/history/index.html

決算資料、https://www.disco.co.jp/jp/ir/library/presentation.html

「さらば製造業」は過去の栄光を捨て、未来への挑戦を応援

 新聞社に勤めている時、日本の製造業の未来を考える連載企画を手掛けました。それは書籍として出版、タイトルは「さらば製造業」です。それは決別の辞でなく、戦後日本経済を築き上げた製造業の栄光に別れを告げ、未来への挑戦を応援する気持ちを込めています。

 ディスコの経営を眺めていると、「さらば製造業」の意を受けて経営革新を体現しているようでうれしいです。砥石を「Kiru・Kezuru・Migaku」に翻訳・進化させ、最先端の技術を取り込みながら新製品を開発し続ける。当然、ライバルは高収益を上げる経営を真似て、追いかけてきます。その追撃を交わしながら、一歩でも最前列の位置を守って受注、新規開拓していく。

 日本の製造業は自動車、電機、機械を主軸に世界でトップクラスの地位をめざし、1980年代にはその目標の地位に就きました。ちょうど「Japan as No.1」ともてはやされた時です。ソニーやホンダが世界ブランドに躍り出て、電機産業でみれば半導体が世界シェアの過半を握るほど最強を誇ってきました。

 ところが1990年代に入って勘違いともいえる過大な自信が、自己革新を怠らない勇気を蹴散らします。ソニーを見てみましょう。カラーテレビのブラウン管技術の頂点に立ったトリニトロンに囚われ、液晶テレビへの進出が遅れます。携帯音楽プレーヤー「ウオークマン」で世界の若者のライフスタイルを変えたにもかかわらず、次世代プレーヤーはアップルの「iPod」に奪われ、「iPhone」で決定的な差をつけられます。一時期、マイクロソフトをしのぐデジタルビジネスの寵児と自画自賛していましたが、あっという間に追い抜かれます。

強さの源泉は事業領域を広げず、深掘りを追求

  他の製造業のように脱落しなかった理由は何かと考えてみました。ディスコの技術は地味です。広島県呉市の家内工業ともいえる零細な加工会社が失敗を重ねながら、半導体など電子産業を自らの舞台に定め、消費者はその存在に全く気づかないままスマホやパソコンなど身近な最先端技術を利用し、生活を楽しんでいます。他の業種に比べて最先端技術と誇ることはしませんでしたが、その領域に簡単に新規参入できないことも十分知っていました。

 一言で言えば、自社の事業領域を広げず、深掘りすることを追求したことです。他社が追随できない切削技術を維持するのは大変だと思います。これだけ高収益を上げば、新しい領域に進出した誘惑に駆られるはずです。

日本の製造業の神髄は「箱庭文化」

 しかし、日本のものづくりの神髄は、極めることです。よく使われる例ですが、日本文化の特徴として「箱庭」「重箱弁当」などが登場します。小さな空間に多くの素材を詰め込み、美しい風景を描きます。ナノレベルの微細加工を求められる半導体産業で日本の製造装置がまだ健在なのも、この箱庭文化に由来するものづくりの巧みさにあります。ディスコの経営は、日本の製造業が未来も生き続けるために忘れてはいけない理念を磨き続けているようです。研磨でピカピカに輝く神髄は、今手元にあるスマホの中にあります。

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