
フジテレビの場外乱闘 ファンドも社外取締役候補も経営改革の成否は二の次
フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスを巡る騒動には呆れてしまいます。米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが株主提案した取締役候補の1人を差し替えました。外国籍の人物を加えていたのですが、仮に選任されたらフジテレビの放送局としての資格が取り消されることがわかったのです。中居正広・性加害問題をきっかけにフジテレビの経営が足元から大きく崩れており、再建に向けて経営改革を求めていたダルトンです。ところが、フジテレビの経営について「基本の基」を理解していないことが判明しました。このままでは、ただの場外乱闘です。
外国人取締役なら放送認可取り消し
取締役候補を差し替えるのは、ダルトン共同創業者のジェームズ・ローゼンワルド氏。6月の定時株主総会に向けて候補者として提案した12人のうち唯一の外国籍です。提案を受けたフジ・メディアはダルトンに対し「放送法上日本国籍を持たない取締役が選任された場合、原則として認定放送持ち株会社の認定が取り消される」と指摘してしていました。
ダルトンは事実上、経営陣の総取っ替えを求めています。フジ・メディアは3月、経営を再建するため、6月の定時株主総会に向けて新たな取締役候補を提案しましたが、長年にわたってフジテレビの経営に君臨していた日枝久氏の影響力が残っているという不満を示し、社外取締役候補12人を代替案として提示しました。
候補者は酒類、医薬品、エンターテイメント、金融、弁護士と多岐に渡り、元フジテレビアナウンサーも加わっています。
このうちの1人、SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長はかつてライブドアの堀江貴文社長によるフジテレビ支配に対抗するホワイトナイトとしてフジ側に立った経験もあるせいか、フジ・メディア取締役会長に就任する意欲を示すとともに、「IP(知的財産)を主軸にして海外展開するべきだ。例えば、過去の名作ドラマなど米ネットフリックスや米アマゾン・ドット・コムにはないIPを現代風にアレンジし、新しい番組を作り出すなどだ。広告一本足打法の解消も必要だ。イベント、映画、グッズ、配信をうまく絡めて売り上げを増やしていく。地上波とデジタルを使い、(視聴者との)双方向性のある仕組みをつくらないといけない」と今後の経営展開についても深く踏み込んで発言しています。
もう1人の取締役候補として選ばれた菊岡稔氏は参天製薬社外取締役、元ジャパンディスプレイ社長を経験しており、経済誌「日経ビジネス」でダルトンの関連会社社長の縁で選ばれたことを明らかにし、「プロ野球ニュースや踊る大捜査線など昔から好きな番組が多かったフジテレビが、最近は視聴率などの面で苦労している。還暦を超えた私の仕事の集大成として、フジ・メディアHDの経営に関与することで、社会貢献もできるのではと考えました。株主総会で選任されるかはまだ分かりませんが、わくわく感のある仕事だと感じています」と話しています。
過去に株主保有で規制違反も
ダルトンはじめ社外取締役候補はフジテレビの経営改革に意欲を示しているものの、果たしてテレビ会社の根幹をどこまで理解しているのか。そんな素朴な疑問を持っていたら、外国籍の取締役が就任すれば放送局の資格を失うことすら誰も触れていない事実には驚きました。
なぜなら、過去にもフジ・メディアは放送法・電波法の外資規制に違反した事実があるからです。2021年4月、フジ・メディアは2012年から14年にかけて放送法などの外資規制に違反していた可能性があったと発表し、監督官庁の総務省も含めて大きな問題となりました。
電波法では外国人の保有株主は20%を超えてはならないと規定されており、超えた場合は放送の免許は取り消され、停波となります。原因は単純集計ミスとされ 20%を超えたといっても0・0004%から0・0008%といわれ、軽微といえば軽微ですが、株式上場している放送局が停波となれば、株主は株式が紙屑になるうえ、2021年まで公けにしなかった事実はかなり重いものです。
わずか4年前の「外資規制違反」に気づかず、今度は外国国籍の取締役候補者を提示するダルトン、フジテレビのホワイトナイトとしての立場を反省して今度は改革者として手を挙げた北尾吉孝氏。過去のテレビ番組のファンからと経営に関与することを受諾した菊岡氏。仮にフジ・メディアの経営陣がダルトンの提示した案の通りになったとしても、フジテレビの経営改革は進むのでしょうか。
経営改革はバラエティ番組じゃない
「楽しくなければテレビじゃない」。フジテレビに君臨した日枝氏は「とんねるず」などのバラエティ番組をかず多くヒットさせ、民放第1位の座を手にしました。経営改革の舞台でも、バラエティ番組のから騒ぎが続いたとしたら、もう悲喜劇を超えています。とても笑えません。