• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

ホンダが消える「プレリュード」が告げる時代とは 変革?懐古?

  「あのプレリュードが復活するのか!」「えっ、なんで今、プレリュードなの?」

発表の瞬間、空間が割れる

 ホンダの三部敏宏社長が「プレリュード」の復活を発表した瞬間、空間が二つに割れた衝撃を感じました。2023年10月25日、ジャパンモビリティショーのメディア向けプレスデーの会見の場でした。すぐ隣のステージにカバーに覆われていたプレリュードのコンセプトカーが現れ、輝く白いボディーが目の前に現れました。三部社長の視線がちょっと泳いでいたのがとても印象的でした。会場の反応をどう受け止めて良いのか戸惑ったと理解したのは、私の勘違いでしょうか。

ホンダとソニーが開発する「アフィーラ」

 プレリュードは1980年代のホンダを体現したスポーツカーでした。1978年に初登場。その後は電動サンルーフ、急ブレーキ時の車輪ロックを防止するABS,4輪がドライバーの操縦に合わせて動く4WSなど日本車メーカーが得意とする電子制御技術をふんだんに盛り込み、進化します。いずれも日本で初めてが”売り”です。

 高速時の操縦性能が問われるスポーツカー市場で、日本車は欧州の自動車メーカーに比べ、その歴史の差から一歩も二歩も遅れていると評価されていました。最先端技術をフル装備したプレリュードは、欧州車との距離を一気に縮めるとともに、ホンダのブランドイメージを高めるフラッグシップカーとして大きな話題を集めました。

プレリュードは日本車のイメージ一新

 なんといっても、デザインが素晴らしい。ちょっとボテッとした従来の日本車のイメージを一掃したのですから。ボディは横幅が広く、車高は低く。ワイパーはベンツなどが採用していた一本式。ヘッドライトはフロントに収納できるリトラクタブル。若い女性からも注目を集め、「デートカー」「スペシャルティカー」という呼び名が生まれましたが、それもそのはず。運転席側にも助手席リクライニングノブが加えられ、利用の意図は見え見え。いやあ、若者にはウケました。

 1987年に登場した3代目プレリュードを試乗したことがあります。広報車をちょっと借りたつもりでしたが、気持ちよく走れるためか、東北自動車道を往復1000キロ以上も走ってしまった”苦い経験”があります。走行中、全然、疲れません。4WSが性能を発揮するので、カーブも直線もストレスがないのです。4WSにはフォーミューラーワン(F1)のノウハウが盛り込まれているというのですから、高速時も気持ちが良いはずでした。

今度は電動化時代の先駆?

 プレリュードは2001年6月に販売停止しています。新型プレリュードが2024年が発売されれば、23年ぶりの再登場となります。三部社長は再登場の理由を次のように説明します。「どこまでも行きたくなる気持ちよさと、非日常のときめきを感じさせてくれるスペシャリティスポーツモデルです。本格的な電動化時代へ“操る喜び”を継承する、ホンダ不変のスポーツマインドを体現するモデルの先駆けとなります」。実車の概要は不明ですが、ハイブリッド車になるとの情報もあります。

ホンダの未来モデルの一つ

 ホンダファンとして、プレリュードの再登場は大歓迎です。しかし、ホンダの経営を考えたら、果たして手放しで喜べるのでしょうか。ホンダは2040年にはすべての新車を電気自動車(EV)、水素を利用するFCVに切り替えると宣言しています。EV全面転換をいち早く打ち出した欧州で合成燃料を使ったエンジン車を認める軌道修正があったので、ホンダが宣言通りに脱炭素、脱化石燃料を果たすのか不明ですが、実現するためには多くの技術課題を乗り越える必要があります。

待ち構える技術課題は多い

 ホンダは2023年10月のモビリティショーで多数の技術目標を提示しました。駆動力の電動化はもちろん、新たなデザインと技術を盛り込んだ車両開発、EV普及を手助けするバッテリーのインフラ、さらにソニーとのEV開発、空飛ぶクルマ。すでに事業として巡航速度に入り、上昇気流に乗っているビジネスジェットもあります。

 ホンダは優秀な人材を豊富に抱えていますから、技術課題を想定して開発布陣を整えているはずです。しかし、あまりにもターゲットが多過ぎませんか。2040年まで残り16年あるとはいえ、ホンダの電動化の象徴として再びプレリュードを開発するのが最良の選択かどうか。

ホンダが挑む技術課題は多い

プレリュードを捨てる勇気が欲しい

 むしろ、最近、どうも影が薄くなっているホンダの企業イメージを高めるツナギとして利用する意図があるのではないか。三部社長がプレリュードの再登場を発表した際、「なぜ?」という思いを抱いた人の中には、電動化に向けて腰が引けているホンダの姿が一瞬、目に浮かんだはずです。もっと自信を持って、過去を捨て新たなホンダを創造する気構えを見せてほしい。プレリュードが電動化の序曲というなら、20年以上も前のプレリュード人気を忘れさせるような革新力を期待しています。

関連記事一覧

PAGE TOP