ホンダが消える 16 ソニーとトヨタが並んだ日 埋没するホンダ
ソニーが2022年春にEV事業の新会社を設立
2022年1月5日、ソニーは米国で開催した技術見本市CESで電気自動車(EV)の構想を明らかにしました。強みを持つ画像センサーや半導体などの活用の幅を広げるため、2年前にEVの試作車を初公開しています。
当時は本気度を疑う見方もありましたが、やっぱり本気でした。偶然にも前日の4日、トヨタ自動車が2020年の米国新車販売でGMを抜いて販売トップに躍り出たことがわかりました。90年ぶりの首位交代だそうです。トヨタがGMを抜いた最大の理由は折からの半導体不足が主因です。
奇しくも半導体をキーワードでソニーがトヨタと「自動車」の話題で肩を並べました。この事実は5年後に振り返ると、日本の産業界にとって歴史的な変節点だったとわかるはずです。産業の壁が取り払われ、世界の産業界のヒエラルキーがついに崩壊し始めたのです。中途半端な強さでは生き残れないのです。ホンダはソニーとトヨタのあいだに埋没してしまい、本当に消えてしまうのでしょうか。
ソニーは2022年1月5日、EVの事業会社を春に新設すると発表しました。毎年ラスベガスで開催されるCESは最先端の技術動向が公表され、世界から注目を集めています。ソニーグループの吉田憲一郎社長はそのCESの舞台でぶち上げたのですから、相当自信を持っているのでしょう。
ソニーは2020年のCESでEV試作車を公表して以来、公道での実証実験などを通じて自動車に必要な技術ノウハウを習得しています。今年のCESではSUVタイプの試作車も発表し、音楽や映像のエンターテインメント機能も搭載し、ソニーが創るEV市場を具体的に示しています。
吉田社長は「価値観が多様化する社会のなかでさまざまなライフスタイルへ対応する」と話したそうです。EV事業の新会社は人工知能やロボット技術を最大限に活用し、日常的にロボットと共生する世界の創造に寄与したいと考えています。ソニーはすでにロボット犬「アイボ」を開発し、人とロボットのコミュニケーションを事業化しています。「長年、半導体を自社で開発してきた強みを生かし、最終的には人の移動空間をエンターテインメント空間にしたい」と吉田社長はNHKの取材で話しています。
トヨタは米市場でGMを抜き、販売トップに
一方のトヨタ。2021年の米国新車販売台数でトップに立ったのは半導体不足に伴う経営力の差でした。トヨタも減産を強いられましたが、2011年の東日本大震災で半導体が不足した経験を活かしてサプライチェーンの在庫や代替品などの現状を細かく把握する体制を整えていました。
この結果、米国での新車販売台数は233万台と前年実績に比べ10%増えています。GMやフォードも大幅な減産に追い込まれたため、経営収益を考慮して利益率の高い車種を優先して生産して販売したため、一部車種で在庫不足が発生して販売台数が前年実績を割り込みました。ちなみに日本車大手はホンダも日産も前年実績比で9%弱の増加と好調な数字を残していますから、日米の経営戦略の差がはっきり鮮明に出ています。ですから、半導体の供給不足が解消されれば、GMが再びトップへ返り咲くとトヨタもみています。
ただ、一時的な”事件”と軽視するわけにはいきません。トヨタの販売首位から「EV事業への足かせ」を読み取ることができます。トヨタは1966年から米国輸出を開始して以来、55年後の2021年にGMを抜き去りました。半導体不足という変則な一時的現象とはいえ、画期的な出来事です。
2021年に世界最大の販売台数を記録したトヨタにとって、半世紀以上もかけて米国販売でトップの座も手に入れたのですから。これが「20世紀の自動車産業」だったら、輝くばかりの栄光として歴史に記録されたでしょう。米国の消費者から上り坂を走れないなどの評価を下されながらも車両単体を輸出したトヨタ。
日米貿易摩擦の標的にされたトヨタは1980年代から米国での現地生産体制を整え、かつて「三河の田舎者」と揶揄された自動車メーカーが米国に深く根差した証が販売首位の座に込められています。
トヨタにとって米国市場は日本に続きEV拡大の重荷に
しかし、「21世紀の自動車」は電気自動車などCO2を排出しないエネルギー源を備えた移動体に変貌します。トヨタが日本に続き米国でもトップの座を占めることはトヨタにとって自動車産業を背負う重荷がさらに増やしたことを意味します。日本ではすでに表面化していますが排ガス、CO2を排出する「20世紀の自動車産業」を存続させるため、電気自動車への移行に一段とブレーキを掛けることになりかねません。
テスラの快進撃をみてください。直近で47万台を超えるリコールが発表されました。2020年の世界の年間販売台数に匹敵する規模だそうです。リコールの内容はトランク開閉が原因です。
日本車メーカーでは起こりえない生産工程の問題ですが、開閉できないとリアカメラの映像が表示されませんし、前方のボンネットが開けば運転の視野が消えるなど自動運転を売り物にするテスラにとって、あってはいけない代物ばかりです。さすがに株価は下げていますが、会社がニッチもサッチもいない状態に追い込まれているわけではありません。21世紀後半をリードする電気自動車メーカーは、「20世紀の自動車産業」の常識に縛られずにを快走し続けるのでしょう。