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「赤字でも列車・バスは走る」JR北海道が問う公共交通とは 人口減に合わせ発想の転換を

 JR北海道が苦境から抜け出せません。1987年4月の国鉄民営化当初から厳しい経営環境が予想されました。加速する人口減、広大な路線網を維持するためのインフラ維持・除雪費などが宿痾の如く重くのしかかり、鉄道事業は赤字の袋小路を駆け巡ります。収益を最優先にリストラすれば、ほとんどの路線が廃線に。それでも乗客が待っている限り、列車、バスは走り続けます。JR北海道だけではありません。人口減に歯止めがかけられない全国の公共交通機関は、経営の発想を抜本的に変える時を迎えています。

鉄道事業の赤字額は鉄道収入に迫る

 まずは現状。JR北海道の2023年度決算によると、売上高は849億円。前年度比で120億円増えました。売上高の大半を占める鉄道事業は698億円で、113億円も増えました。札幌市に近い北広島駅に日本ハムファイターズの新球場がオープンしたほか、コロナ禍後の海外旅行客が戻り、新千歳空港と札幌市を結ぶ路線が回復するなど旅客増が堅調でした。

 ところが営業経費は売上高を大幅に上回る1424億円。鉄道事業の売り上げの倍以上の水準です。しかも、営業経費は前年度比55億円増えました。除雪など冬季の費用は55億円と前年より2億円減らしたものの、安全確保のための修繕費が34億円増の399億円と拡大しています。

 当然、営業損失は赤字の574億円。すべてが鉄道の経費ではありませんが、鉄道事業の売り上げの8割以上に相当します。このままで赤字から黒字への道は描けない。誰でもわかる結末です。

 JR北海道は鉄道の赤字を補うため、グループ企業で駅ビルなどの不動産、小売業、ホテルの事業を多角化していますが、グループ連結決算でみても売上高1477億円、499億円の営業赤字です。最終益は民営化直後に設定された経営安定基金の運用益、そして国の支援金などを加えて連結、単体ともに黒字転換していますが、先行きの厳しさに変わりはありません。

国内外の人気観光地でも支えられない

 北海道は国内でもトップの観光人気地ですし、海外の旅行客も順調に増えています。JR北海道にとって追い風と期待したいのですが、広大な道内を移動するには鉄路だけでは不十分で、どうしてもバスなど他の移動手段を利用せざるを得ません。観光客で賑わうのは一部の路線だけです。普段の利用客は高校生ら通勤・通学が主役です。鉄道ファンの人気を見落とすわけにはいきませんが、残念ながら赤字基調を転換する支えとしては微力です。

 厳しい経営状況を反映して廃線や駅の廃止が毎年、話題になります。例えば、最北端の稚内に至る宗谷線は、名寄以北の駅は大半が廃止の対象です。住民の足として欠かせないだけに、地域の市町村は駅維持費を負担するなど対策を打っていますが、人口減などで財政事情はどこも厳しく、支援策にも限界があります。

 JR北海道は鉄道事業の損益に囚われず、路線維持を前提に赤字を織り込んで国や地方自治体と共に新たな事業計画を打ち出す時です。路線維持の赤字額はさほど大きくなく、鉄道事業の足を引っ張っているのは北海道新幹線です。現在は函館まで営業していますが、札幌延伸になれば設備投資も含め赤字幅は拡大するのが確実です。

赤字路線維持を前提に経営を再設計

 赤字路線の再建策に知恵を絞るよりも、まずは地域の住民、生活と共に走る路線を維持する事業計画を作成する方が賢明です。いつか将来、北海道新幹線の札幌延伸によってJR北海道の経営が改善すると考えるのは無理筋です。一度、北海道新幹線の事業計画を切り離し、地方の公共交通機関の立ち位置に返り、JR北海道を再定義しましょう。

 JR北海道だけではありません。日本全国の第三セクターの鉄道、バスも経営状況は同じです。1時間、乗っていても乗客は数人という路線バスもあります。たとえ乗客数は限られていても、学校、病院など日常生活に必須の交通機関ばかりです。車両やバスを運転する人材も不足しています。交通機関の事業基盤が基礎から崩れ始めています。

 国はもっと大胆な予算編成に挑んでほしい。東京など大都市圏以外で進捗する人口減で疲弊する地方自治体の交通網の現状は十分に把握しています。地方交通機関の経営努力を期待する時代は終わったとわかっています。自動運転など最先端の技術を使った交通インフラの構築を模索していますが、最優先すべきことは地方の公共交通機関の経営をもう一度、ゼロから見直して新たな事業化への道筋を再設計することです。公的資金をためらわず注入して経営基盤を再構築する時です。

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