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軽EVは日本を救うか⑤ EVの高価格化がスズキとダイハツの協業を加速

 軽EVの世界標準の行方で書き忘れていたことがあります。スズキとダイハツ工業が協業を深め、どう一体化するのか。電気自動車(EV)時代の到来は、スズキとダイハツの融合を促す触媒の役割を果たします。その触媒のひとつが高価格化。

価格は2極化

 前回も書きましたが、電気自動車の需要は2極化すると予想します。まず高価格化。ソニー・ホンダのEVが日本円換算で1000万円以上になるそうです。アップルやグーグルもEVの波に乗ろうと試行錯誤しており、インターネットを使って情報技術のトップ企業と自動車メーカーが組む流れがさらに加速するのは確実。最新鋭のEVが登場し始める2025年以降は、自動運転、エンターテインメントを軸に最先端の技術の競い合いが始まり、価格は当然高騰します。

 購入するのは富裕層。自動車の車内空間が近未来の世界に転じる愉しみを手にしたい。「1000万円ぐらい払っても、構わない」。富裕層を中心に底堅い需要は十分に見込めます。

 一方で低価格化の逆流も生まれます。自動車は、移動するための足という割り切りです。日常の生活、通勤、物流に欠かせません。1000万円も払う余裕も必要もない。特に途上国は自国経済を成長させるため、EVを横目にガソリン・ディーゼルのエンジン車が普及し続けます。

 地球規模でカーボンニュートラルを実現しようしていますが、実は化石燃料から発生するCO2など温暖化ガスは世界の60か国程度で9割を占めます。欧米、中国、日本などが率先してEVを導入するとしても、残る100以上の国にとってはEVの大きな負担。

EVにも低価格化の波

 EVを賄うためには発電所、充電する装置など関連インフラに対する新たな巨額投資が欠かせません。そんな投資余力がない国は、割安にインフラ整備できる既存のガソリン・軽油を選択するしかないのです。

 もっとも、地球温暖化、気候変動の影響は先進国、途上国に関わらず地球規模で襲います。EVの波は確実に途上国に及びます。

 求められる価格はこれまた当然、値頃感のある水準に収まります。日本車メーカーにとって、軽や小型車で培った経験がEVで発揮するチャンスが再び訪れ、スズキ、ダイハツの目の前にはEVの大きなマーケットが広がります。スズキがトップシェアを握るインドの再現と考えてもよいでしょう。

 ダイハツもトヨタ自動車グループで海外向け小型車の開発・生産を担う役割がさらに重みを増します。ダイハツは軽よりも海外向けの1000CC以上の小型車に軸足を置き、軽クラスのミニカーはスズキが負う。次第に両社の役割分担が明確になっていきます。

トヨタGとの一体化も始まる

 2021年7月にスズキ、ダイハツがトヨタを軸にしたCJPTに参画した意味が一気に明確になります。CJPTはEVを含めた新しい自動車規格を開発するため、トヨタグループの日野自動車やいすゞが参加しています。トヨタも加え、合計5社のノウハウを投入してスズキ、ダイハツは2023年中に軽EVの商用軽を発売する予定です。

 スズキがトヨタグループと一体化する流れも加速します。軽トップの2社が手を組み、軽EVを投入すれば、軽EVでヒットを飛ばした日産自動車や三菱自動車の背中がすぐに見えるはず。

  スズキとダイハツが創る軽商用EVは、両社協業の深化を加速させるのは確実です。見逃せないのは軽商用EVのプロジェクトがスズキとダイハツ一体化に立ちはだかる最大の障壁を崩す可能性があること。独占禁止法です。スズキとダイハツの軽のシェアは2021年をみると、ダイハツが32・2%、スズキが30・8%。両社合わせて63%、100万台を生産、販売しています。

公取委は独禁法からどう判断するか

 両社の協業は、公正取引委員会の目から逃れることはできません。しかし、EVはこれから生まれるマーケット。公取委が同判断するかは全く不明ですが、すでに動き出しているCJPTプロジェクトに警告を発していないことを考慮すれば、現時点は問題なし?トヨタもそう判断してプロジェクトを進めているはず。

 公取委も日本の基幹産業である自動車がEVを取り込みながら、変革する時と理解しているでしょう。スズキ、ダイハツが1台でも多く売り、販売トップを競った時代を懐かしむ時がもうすぐ訪れます。

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