「ランクル」が最強ブランドになる日 クラウン・ブランドの栄枯盛衰は寂しい
トヨタ自動車の「クラウン」がフルモデルチェンジしてから1年を迎えました。初代から16代目を数えるクラウンは誕生以来、日本のセダンの象徴として名前の由来通り、王として君臨し続けてきましたが、自ら王座を降りました。ターゲットはより若い世代に焦点を合わせたフットーワーク重視の車に生まれ変わりました。販売の勢いをみても、かつてのオーラの輝きは消え失せています。
クラウンはオーラが消え、ルノーの影が
クラウンの現在の立ち位置を確認します。2022年9月から2023年7月までの販売台数は、トヨタによると累計約3万5000台。業界団体の自販連調べでは2023年1月ー6月は2万3288台を販売し、乗用車で19位に。ちなみに、2023年7月は3200台。発表時の月間販売目標台数が3200台ですから、あらかじめ仕立てた数字に映ります。他の車は端数ですから、トヨタとしての意地を見せつけたのでしょうか。
クラウンと言えば、法人や富裕層など優良顧客を抱えていました。モデルチェンジ後の販売はまさに爆発。事前予約を含めてすごい勢いの販売台数を記録し、それはトヨタの圧倒的な販売力を他のメーカーにみせつけたものでした。しかし、それも16代目で終わり。デザインも大きく変わり、フランスの「ルノー308」と似ているのが話題になるぐらいの存在です。
米高級車もSUV化
ブランドの栄枯盛衰は仕方がありません。米国の高級車の代名詞であったキャデラック、リンカーンを見てください。セダンは残っていますが、人気車種は大型のSUV。大統領専用車をイメージしてもらえれば、すぐにわかるはずです。クラウンもキャデラック、リンカーンが歩んだ道をなぞるのでしょうか。どうも同じ道とはならないと思います。トヨタの場合は、すでにクラウンのブランドを代替するブランドがあります。「ランドクルーザー」です。
ランドクルーザー(以下ランクル)は1951年8月に誕生。「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」として信頼性・耐久性・悪路走破性の継承と進化を続けながら、現在までに約170の国と地域で、累計1130万台を売り切っています。
高い人気の理由は耐久性、走破力だけではありません。世界的なSUVブームを追い風に「ランクル」が高級ブランド化したのです。長年、世界で評価された信頼性は、SUVブームに乗って生まれた新車と違い「ランクルが行けない場所には他の車は絶対に辿り着けない」という唯一無二の強さから創られたものです。キャデラックやリンカーンの高級SUVとは比較できない価値を自ら体現したと言って良いでしょう。
ランクルは世界のフラッグシップに
2021年8月、トヨタは 新型ランドクルーザー300をフルモデルチェンジしました。14年ぶりです。凄まじい人気は受注残でわかります。5つのグレードを揃え、エンジンは3・5リットルのガソリンターボ、3・3リットルのディーゼルターボの2種類。価格は510〜800万円。決して安い車ではありませんが、国内外から注文が殺到した結果、受注を停止。国内向けが5000台と少ないこともあって納期は4、5年かかると言われました。今は2年程度らしいです。
ランクルは、フラッグシップの300、本来の悪路走破性に重点を置いた70、街中での実用性に配慮したプラドの3シリーズが設定されていましたが、2023年8月にはプラドの後継として250が設定され、2024年8月に発売すると発表しました。プラドも人気車種だけに、きっとディーラーには事前予約が舞い込んでいるはずです。
米国の高級車の代名詞であるリンカーン、キャデラックが大型SUVとして息を吹き返していますが、ランクルは高級SUVの先駆的存在。そういえば高級車の頂点に立つロールスロイスは2018年にSUVを初めて発売しました。そしてスポーツカーの代名詞であるポルシェでも一番売れているのはSUV。ベンツも「ゲレンデヴァーゲン」が人気です。近所に高級車を乗り回す方がいますが、その駐車場には「ランボルギーニ」の隣に「ゲレンデヴァーゲン」が並んでいます。
電気自動車(EV)の時代に突入したら、生き残れないのではないか。そんな疑問はあります。ただ、大型SUVはEVが普及するきっかけとなった脱炭素と最も遠い存在。他の車種に比べEVへの転身に時間がたっぷりあります。自動車メーカーにとって儲けが大きいクルマです。うまく進化するのは間違いありません。
ランクルはすでに世界のトヨタブランドの象徴になっているのかもしれません。