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日本の製造業、世界一と信じた神話が消えていく

 大手製造業による不正事案が絶えません。今度は日本を代表する重工業大手のIHIです。ここ数年は、トヨタ自動車グループの企業がエンジンや安全性に関する試験データを偽っていましたが、IHIも船舶用エンジンの燃費データを改ざんしました。しかも、不正行為は最近ではなく1980年代にまで遡る可能性もあります。日本を経済大国に押し上げた成長エンジンは頑固一徹と揶揄されたほど生真面目な製造現場でした。それは幻想だったのでしょうか。日本経済の衰退にブレーキを掛けられない理由が残念ながら、わかってきました。

IHIは三菱、川崎同様、日本の産業の基幹

  IHIは4月24日、子会社のIHI原動機が船舶用のエンジンなどで燃費に関わる試験データを改ざんしていたと発表しました。2003年以降に出荷した船舶用エンジン4881台のうち、約9割に当たる4215台について燃料消費率の実測値と異なるデータに書き換えていました。発電装置や鉄道車両に用いられる陸上用のエンジンでもデータの改ざんが行われていたそうです。データ改ざんは1980年代後半からともいわれ、組織全体で不正を働いた可能性もあります。

 IHIは旧社名が石川播磨島重工業。1853年、江戸幕府が隅田川河口の石川島に造船所を建設し、西洋式軍艦を建造しました。民間に払い下げられた1876年、民間で初めての造船会社となり、明治以降の富国強兵の一翼を担います。日本の産業史の冒頭に登場する名門で、三菱重工業、川崎重工業と並んで日本の産業が必要とするもの全てを開発、設計、生産し、軍事・民間を問わず供給しています。三菱同様、民間会社とはいえ官民一体で日本の産業の裾野を広げ、機械製品の基準を定める会社でもあります。

 そのIHIがエンジンの基本性能を決める燃料消費率を誤魔化すとは・・・。呆れるというよりも、確信犯としか思えません。データに必要な数値や条件などは熟知しているにもかかわらず、不正する。製品として価格競争力を維持するためには、数値を改竄するしかないとわかっていたはずです。

1980年代から衰退を補う不正が必要だった?

 しかも、1980年代後半からとは・・・。理由はわかりませんが、1985年のプラザ合意で急騰した円高で輸出採算が悪化したからでしょうか。米国の背中が見えたと勘違いするほど急伸した日本経済を支えてきたのはIHIなど製造業の強さです。その強さが危うくなったから、不正に手を染めたのか。

 日本経済の成長エンジンである製造業が1990年代には、その推進力を失い、帳尻を合わせるために不正に追い込まれる窮地に立っていた。そう考えれば1990年代以降30年間、経済成長率、年収が共に成長ゼロとなる悲惨な状態から抜け出す力はすでに失っていたと理解できます。

 その視線で最近の不正を眺めると、謎が解けます。例えばトヨタグループ。ここ数年、エンジンや安全性などで不正認証が続き、日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機は生産停止に追い込まれ、デンソーは世界的な大規模リコールに見舞われています。

トヨタグループの相次ぐ不正の謎も解ける

 トヨタグループの頂点に立つトヨタ自動車は、好調なハイブリッド車や円安を追い風に4兆円を超える過去最高利益を稼ぎ出しています。不正を引き起こしたトヨタのグループ企業はそれぞれ日本でもトップクラスの企業規模ですから、不正に伴う生産停止や補償などが直接に親会社のトヨタに及ぶとは思いませんが、相次ぐ不正を犯すグループ企業を土台に過去最高利益を謳歌するトヨタ自動車の風景は奇妙に映ります。

 IHIは氷山の一角でしょう。そういえば三菱電機、東芝など優良企業による不祥事に驚くことを忘れていました。「あの会社がなぜ?」と呆気に取られていたのが、いつもの間に「やっぱり、あの会社もそうだったのか」と納得しています。日本の製造業の劣化は予想以上のようです。自分自身の見通しの甘さ、勘違いを反省するしかありません。

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