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メタ、アルファベットが見透す近未来 「猿の惑星」の結末が待ち受けていたら

先週、米国フェイスブック本社の近くに設置されている立て看板が差し替えられている光景をテレビで目にしました。同社のアイコンである親指を立てて拳を突き出す「いいね」から、無限大を示す数字の8を横に寝かしたようなアイコンへ変えられました。理由は会社名の変更。2021年10月28日、フェイスブック(Facebook)からメタ(Meta)に名称が変わりました

SNSの時代です。「いいね」のアイコンは、もはや時代のアイコンです。10年ぐらい前に米国のシリコンバレーに行った際、観光気分でフェイスブックの本社に立ち寄ると「いいね」のアイコンをど〜んと描いた大きな看板が立っていました。私と同じ観光客が次々とアイコンが描かれた看板の前に立って記念写真を撮影していきます。「From to ZERO」サイトのトップページでカテゴリー「ゼロの経営」を表すイメージ写真は、この時に撮影したものです。当時のストリートの名前は「1601 Willow road」でしたが今の看板に書かれたストリート名は「「1 Hacker way」に変わっています。洒落ていますね。

「いいね」の看板の裏側に「Sun micro systems」の社名が

ほとんどの人は看板の表しか見ませんが、実はアイコン「いいね」の看板の裏側には「Sun micro systems」の文字が描かれていました。2011年2月、フェイスブックは事業拡大と従業員の急増に合わせてサン・マイクロシステムズが旧本社として使用していた建物と敷地を買収しました。これに伴い2010年末までサン・マイクロシステムズと銘打っていた看板をひっくり返して「いいね」のアイコンに塗り替えたのです。

サン・マイクロシステムズは1982年に創業したワークステーションで一世を風靡した世界的なIT企業でした。自社技術を公開するなどITの世界では主流になっているオープンシステムズの領域を切り拓き、シリコンバレーの勢いを示す象徴にもなっていました。しかし、激しい開発競争に破れ、2010年にオラクルに買収され、わずか30年足らずで消滅します。世界で初めて半導体の事業化に成功したフェアチャイルドから数多くのIT企業が誕生し、消え去るシリコンバレーの激しい生存競争を物語る企業のひとつです。フェイズブックの創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグがサンの看板を捨てずに、しかも社名を残したままひっくり仕返して再利用したのは、サン・マイクロシステムズへの尊敬の念を込めて残したと言われています。

ザッカーバーグは、社名変更の理由として事業の柱をMetaverse(メタバース)に据えるためと説明します。メタバースはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使って三次元の仮想空間をインターネット上に創り上げ、利用者は自身の分身であるアバターを操作します。空間内を自由に移動しながら、遊びや仕事などを様々なサービスを体験できるそうです。だいぶ前ですが、ショッピングモールなどを構築した「セカンドライフ」の進化系のようです。「人々は仮想現実の得体知れない潜在力を利用できる。これまで映像を通してできたことよりも、あなたが想像するほとんどを可能にする」と説明します。うんちくとして加えると、メタバースはSF作家のNeal Stephensonが1992年に発表した「Snow Crash」で創出したもので、自身の世界(universe)を超越(meta)できる空間を表す造語だそうです。

社名変更で失った信用は戻らない

事業の将来を考えた戦略と素直に受け止められないのが今回の社名変更です。背景にはフェイスブックの元社員による内部告発があります。2021年9月にフェイスブックの元社員フランシス・ハウゲンさんがメディアや米議会関係者へ社内文書をリークしました。社内調査で、サービスを通じて提供される情報内容についてユーザーに害を与える、あるいは政治的対立を誘導する恐れがあると分かっていながら、自社の利益を優先している」と告発しました。ザッカバーグCEOは反論していますが、フェイスブックは今や世界の社会的な情報インフラとなっているだけに米国議会を巻き込んで大騒ぎとなっています。米雑誌のタイムは社名を変えたからといってユーザーから失った信用は戻らないという論調を展開しています。フィリップスモリスやBPなど過去の例を挙げながら、社名変更後のイメージを調べても過去に起こした重大な事件や事象は人々は覚えていると結論づけています。

今回フェイスブックを取り上げたのは、同社の功罪よりも社名変更のインパクトです。フェイスブックの功罪については他のメディアやネットサイトで議論されていることもあるので省きました。それよりも見逃したくないのは最先端を疾走する企業と、そこから取り残される日本企業の鈍感さでした。

最近、思想家である井筒俊彦さんの難解な本にハマっているため、「メタ」という字句に反応していることもあります。井筒さんは語学の天才でコーランを翻訳するなどイスラム教、キリスト教、仏教、ギリシヤ哲学などを全て原語で読破した天才です。宗教や哲学に精通したまさに博覧強記を力に宗教の枠組みを超えたメタ宗教の構想を多くの書籍で示しています。と書いてはいますが、メタ宗教の理解はまだまだ足りません。ジグソパズルを楽しむのと同じように一つ一つのピースをなんと理解しようと努める楽しさを覚えたばかりです。

旧フェイスブック(現在のメタ)はインスタグラムなどの多くのネットワークを事業化して世代を超えた情報インフラとなっています。現在はサービスの提供という枠を超えて人間の判断材料、時には世論形成に大きな影響を与えています。メタバースを本格的に事業化する過程で、人間の社会生活そのもの、そして考える知能にも影響を与えるのは間違い無いです。SDGsを掲げて改めて社会の公器としての役割を問われている現在の企業の殻を明らかに無視し、破壊しています。

これはフェイスブックだけでありません。グーグルにもその恐怖を感じます。グーグルは2015年8月、アルファベット(Alfabet)という会社名に社名変更しました。社名のAlphabetには市場平均を上回る収益率を意味するはAlphaと、賭け事のbetを掛け合わせたと言われています。しかし、私には技術のスタート、基本、そして新しい世界を最初から構築する存在そのものになろうという野望が込められているとしか思えません。

グーグルは検索事業からスタートしました。今ではスマートフォンはじめネット社会を支える技術のデファクトの地位を確立しています。優秀な人材や圧倒的なコンピューターやデータセンターを活用してロボット、車など人間社会のインラフはもちろん、生命科学にも投入してがん撲滅など製薬研究にも力を入れ、永遠の生命を目指しているとさえ言われています。当然のように人間の知能に迫るか上回る人工知能(AI)を使い、メタと同様に仮想空間、宇宙空間をコントロールする事業に手を広げていきます。

テスラのイーオン・マスク、アマゾンのジェフ・ベゾスらも手にした巨万の富をもとに地球外へ事業の可能性を求め、挑戦を開始しています。

目の前の事業改革に注力する日本の企業

これに対し日本の企業は?

注力しているのは地球温暖化対策としてカーボンニュートラルに取り組む姿勢を喧伝し、事業転換に追われる姿が見るだけです。21世紀をどう描こうとしているのかー予見させる思想が見えません。息を吹き返したソニーを見ても高収益企業としての評価は揺るぎませんが、地球の未来を担う覚悟は見当たりません。ホンダは総花的な夢を描いて見せ始めましたが、いずれも二番煎じに近いものばかりです。日本を代表する企業であるトヨタ自動車は水素エンジンを搭載した車に乗ってレースに出場するワンピース姿の社長がテレビCMに現れるだけです。かつてサン・マイクロシステムズと提携した富士通は今も柱の事業は変わりません。

テラ、アルファベットが目指す未来、日本企業が挑む未来戦略との間にある距離は等比級数的に拡大しているようです。

フェイスブックからメタへ看板を立て替えた後も旧フェイスブック本社前に掲げられたサン・マイクロシステムズの看板は残っているのでしょうか。10年後もそのまま使われていたら、その時古き良き製造業の時代を思い出との笑い話になればうれしいです。しかし、もし仮想空間と実空間の区別もつかない社会が到来していたら・・・映画「猿の惑星」の結末で主人公チャールトン・ヘストンが海岸に埋まった自由の女神像を見て受ける衝撃と同じ風景として残っていたら悲しいです。

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