御手洗冨士夫、永守重信、後藤高志、孫正義 自らのオーラに消される経営者たち
あれだけ輝いた経営者が自らのオーラに耐えきれず、影が薄くなり始めています。素晴らしい発想とその剛腕を知っているだけに寂しい。歳月が過ぎ、経営環境が変わっているにもかかわらず、経営者がその変化に追いつけず、取り残されているからなのでしょう。もちろん、本人は変化を体感し、自らの変革の必要性を自覚しています。それでも姿は立ちすくんでいるように映ってしまう。企業経営の妙と感心するのは、当事者じゃないからでしょう。
御手洗会長の信任票はぎりぎり過半
キヤノン の御手洗冨士夫会長兼CEO。2023年3月末の株主総会で退任寸前の危機にあいました。取締役は毎年、株主から信任を得る必要がありますが、御手洗会長の再任賛成は全体の50・59%。他の取締役も賛成率は低下しており、御手洗会長だけの問題ではないようです。主因は女性取締役の不在。国内外の機関投資家はダイバーシティー、多様性を重視し始めており、不在が続くキヤノン の経営陣に対する不信票を増やしています。
果たして、それだけか?。御手洗会長は1995年の社長就任以来、経営の実権を握り続けています。創業家出身とはいえ、その歳月は30年近い。当時、新人で入社した人材が取締役になっているでしょう。キヤノンには優秀な人材が集まり、入社後も海外駐在など様々な現場を体験し、幹部を育て上げます。女性取締役に相応しい人材が皆無だったわけがありません。
女性取締役の不在が主因だが、それだけか
キヤノン の業績は好調です。東芝から買収した医療機器は予想通り収益源に育ち、セキュリティ需要の追い風を受けて監視カメラ、半導体投資の拡大で露光装置いずれも力強い。しかし、経営そのものは過去の成功をなぞる方程式通り。現況は安心でも、これからの変革を期待できるのか。社員は御手洗氏の言動を注視し、社内に異論を唱える空気は見当たりません。経営陣もしかりです。経団連会長も務めた名経営者である御手洗会長に次代のキヤノン を描く力、周囲を支える取締役らに旧態依然のイメージを投射されても仕方がありません。
永守さんはもう見ているのも辛い
名経営者と呼ばれながらも、自ら創り上げた成功の方程式に縛られている。御手洗さんだけじゃありません。ニデック(日本電産)の永守重信会長はもう傍目で見ていても辛い。結果重視を徹底する「ブラック企業」と陰で揶揄されながらも、創業者の永守会長は好業績を重ね、そのカリスマ性も手伝って株主から絶大な信頼と人気を集めていました。先行きが見えない株式市場も、永守さんの一言で上昇へ転じたことが何度も。
しかし、後継者問題で躓きます。多くのメディア、この小サイトでも何度も書いていますので省きますが、未来を見透すはずだった名経営者は実は、創業以来の成功体験を貫く頑迷な人物になっています。
みずほのエースが西武再建
西武鉄道を再建した後藤高志社長も残念。2005年5月、西武鉄道の社長に就任しました。メインバンクのみずほフィナンシャルグループからの転身です。当時、頭取の有力候補でしたが、西武へ。本人の胸の内は複雑でしょう。政商を体現した堤康次郎が創業した西武鉄道は、息子の堤義明氏が事業の多角化を加速、三菱、三井の財閥に続く同族企業グループとなりました。義明氏の横暴ともいえる権勢は上場企業という公器を忘れ、相次ぐ不祥事が西武グループの凋落を招きます。
今は再び堤義明に?
後藤氏はみずほに対する意趣返しのように西武再建に挑み、見事に成功します。システム障害やハラスメントなどで経営が今もふらついているみずほグループを見ていると、「後藤さんが頭取に就いていたらどう違ったのか」と想像した時もありました。しかし、西武のトップに座り続けて17年間、企業グループの勢いをみていると、「堤義明」が「後藤高志」に名前をすり替えただけの印象を受けます。
そして孫正義氏。ソフトバンクの総帥です。1980年代から起業、事業展開を眺めてきました。いわゆる情報技術、コンピューターが普及し始め、産業のガラガラポンが始まっている頃です。インターネットなどの未来技術が全く見えないだけに、当時、マイクロソフトを創業したビル・ゲイツが来日して取材依頼があった時、「若手記者に任せれば」と軽く対応したほど。孫正義氏も同世代の西和彦氏の評価に隠れ、数あるベンチャー経営者の一人でした。
自らのビジョンを何度も書き直す孫さん
その後の活躍は説明不要でしょう。直近で印象的な場面は、2016年12月にトランプ氏が大統領選で勝利した直後、すぐさま米国へ訪れ、ニューヨークの五番街にあるトランプタワーで握手した瞬間ではないでしょうか。あの金ピカのビルでの握手です。お金のニオイが充満しているのがテレビ画面から見えた気がしました。
2017年にはサウジアラビアなどとビジョンファンドを設立。運用資金は8兆円以上。兆円単位のマネーが飛び交い、足算する気が起きません。トランプとサウジアラビアという猛者を取り込む孫さんの度胸と勝負魂にはたまげました。
ソフトバンクは創業当初、ベンチャーキャピタルのイメージでしたが、実業家としての誇りを持つ孫さんは電話会社を買収したりして一獲千金を狙う企業イメージを払拭します。ところがビジョンファンドの巨利は、事業家の誇りは埃となってしまい、自ら投資会社と説明する場面を見た時は、40年前に時計の針を戻すのかとあきれました。
兆円の赤字を出しても潰れないのは、さすがですが・・
ソフトバンクの決算は赤字が続き、しかも兆単位。メインバンクのみずほが震え上がっているでしょうが、感覚的に想像できない巨額赤字を計上しても経営破綻しない孫正義さんのオーラには敬服するしかありません。その孫さんも当分は決算会見に登場しないと話しています。自らが増幅したオーラの影の大きさを改めて知り、実物大に描き直す作業を始めるのかもしれません。
優れた経営者はまだまだいらっしゃいます。ただ、古い名経営者列伝を開いて懐かしむことはやはり虚しいものです。新たに名前を連ねる新鮮な面々が増えることを期待しています。