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モビリティの時代 クルマは「ハコ」で進化する 「箱」と「スペシャル」の2極化へ

 電気自動車(EV)の到来が引き金とは考えていません。これまでも流れは始まっていました。ただ、自動運転やエンターテイメントが当然のように標準装備される近未来で、それがここまで加速するとは予想できませんでした。EVの車体デザインです。より人間が楽しむ車内空間が創出されるなら、いろいろなデザインが増えて良いはず。しかし、ジャパン・モビリティショーをぐるりと回って感じた日本車メーカーの答は「箱」と「スペシャル」の2極化。もっと自由な発想で未来を想像し、創造できなかったのでしょうか。今回は「箱」について。「スペシャル」は次回へ。

三菱自の未来は「デリカ」に

 三菱自動車の未来には驚きました。将来を託すクルマとして長方形の箱が登場したからです。加藤隆雄社長は自社の未来を語った後、ミニバン「デリカ」をモデルにしたコンセプトEV「D:X Concept」をお披露目しました。「開放感あふれる圧倒的大空間キャビンと、さまざまな冒険に応える航続距離と走破性を実現します」と三菱自のHPは説明します。

 2024年初めに国内で発売する新型ピックアップトラック「トライトン」もガッチリした箱。同車はタイで生産しており、冷蔵庫に荷台を付けたような重厚感が東南アジアを中心にヒットしています。「これからも、ドライバーの冒険心を呼び覚まし、乗る人すべてがワクワクするような、心豊かなモビリティライフをお客様に提供し続けます」。加藤社長が説明する三菱のブランド「スリーダイヤモン」を支えるデザインはハコにあるようです。

トライトン

 三菱自はもともとトヨタ自動車や日産自動車、ホンダの上位グループの間隙を突く新車開発でヒットを飛ばしてきました。「パジェロ」「ランサー・エボルーション」などアウトドア、そのままラリーレースに出場できる性能を体現したクルマ、キツイ言い方をすれば日本の道路事情を考えれば過剰なスペックを備えた”乗用車”を生み出し、ブームを引き起こしてきました。結果は大成功。トップメーカーと差別化するためのマーケティングは高く評価されてきました。

多目的に利用できる空間を創る

 その真骨頂が「デリカ」でしょう。車体は長方形で車高も重心の高さが心配になるほど引き上げています。フロントはまるで電気カミソリをそのまま嵌め込んだかのようなギラギラ感。屋根はカヌーでもスキーでもキャンプ道具でも、とにかくどんな貨物も載せられる頑丈さ。車内空間は広々。家族や友人ら多人数でワイワイ騒ぎながらロングドライブを楽しむこともできますし、目的地に必要な大量の荷物を詰め込むこともできます。ユーザーの使い方に多目的に利用できるミニバンとして大人気を集めています。

ホンダ・GMの無人タクシー「クルーズ」

 ホンダはGMと共同事業で展開する無人タクシーを公表しました。無人の自動運転で運行するので、車内には運転席がありません。向かい合わせの座席が配置されています。自宅のリビングルームをそのまま抜き出し、車内に埋め込んだイメージです。

ホンダもトヨタも考えは同じ

 近未来のEVはインターネットを介したナビゲーションシステムを活用して、自動車運転や音楽や映像などのあらゆる機能を備えます。ヒトは音声だけで指示、あるいは操作できるようになります。多人数で乗車していれば、目的地に着くまでの時間をいかに楽しみ、リラックスするかが大事に。自宅でくつろぐリビングループのようなレイアウトにはなるもの当然でしょう。利用目的がこれだけ明確なら、車内空間を最大限に拡張できる長方形の箱がEVの車体デザインとして最適になることに違和感はありません。

トヨタ「KAYOIBAKO」

 トヨタは新しいコンセプト「通い箱」と呼ぶ多目的EVを発表していますが、想定するユーザーの大半は三菱自と同じアウトドア志向の客層と重なっています。 展示車ではカヌーやカーゴボックスを屋根に載せ、エンジン車と変わらぬEVの機動力をアピールしています。

 私はシーカヤックを載せ、遊びによく出かけた時期がありました。時にはカヤック2隻を載せてロングドライブする時も。当時の車は三菱「パジェロ」。トヨタの「ランドクルーザー」にかないませんが、3リッターのV6エンジンと四輪駆動がしっかり仕事をするので、行きも帰りも安心してドライブできました。

 EVは走りもデザインも変えてしまうのか

 そのパジェロはデリカの未来モデル「D:X Concept」や「KAYOIBAKO」と比べて「ハコ」ではありませんでした。確かに機能や使い勝手を考えたら、三菱もトヨタも展示車の方が優れています。しかし、ここまで箱形に徹底されると「クルマのデザインとはなんだろう」という基本から考え直す必要があるのかもしれません。車が愛される理由の一つにボディデザインがあります。それがEV化で「ハコ」が共通のアイデンティティになってしまったら、マイカーへの愛着感はどこへ?。

ダイハツの「meMO(ミーモ)」

  箱形の車体といえば、軽自動車では一足早く当たり前のデザインになっています。いわゆるトールボーイと呼ばれ、スズキ、ダイハツ工業のヒット車の先頭を走っています。軽は規格で制約された車体を120%活かすため、真四角の車を設計し、軽市場を広げてきました。EVになったからといってボックスに驚きません。むしろ、これまで蓄積した経験を活かして箱形に違和感を抱かない「カワイイ」「むしろ箱形が格好良い」を発するオーラを放ち始めています。

 5年後、日本の道路上を走るEVの過半は「ハコ」デザインとなっているのでしょうか。街の風景がどのように変わるのか。楽しみです。

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